2012年07月29日

夜空に願いを

ものすっごく久しぶりの更新です!!!!!
すみません……


そして今更ながら7月7日、七夕に創想話ジェネに投稿したSSの再掲載です。
なにげに更新していない期間に絵の方はかなり描いてたりするのでそちらも後日まとめて上げます、はい。

↓以下本文です







「明日は、七夕なのよ。七夕知ってる?」
 図書館にやってきたアリスは、挨拶の後、すぐに本題に入った。パチュリーは読んでいた本の上に手を置いて、ふむ、と呟いた。
「七夕。そんな時期なのね、もう。懐かしいわ」
「……懐かしい?」
「ここに住み始める前は、七夕のお祭りを見ることもあったわね」
「つまり、ここではやってないんだ?」
「今のところ、ね。レミィはパーティ好きだから、そんなのでも口実にしてそのうちなにか始めるかもしれないけど――でも、夏はあんまり元気ないからね、だから今までなかったのかも」
「なるほど、お嬢様の機嫌一つってことね」
 アリスは椅子を引いて、パチュリーの隣に座る。
 ほぼ同時に、小悪魔がお茶をいれて運んできた。早さからすると、アリスが図書館に入る前、おそらく紅魔館に入ったというあたりから準備を始めていたのだろう。アリスは笑顔でありがとう、と応対する。
「魔界には七夕のお祭りはあったの?」
「うん。お祭りというか、イベントって感じなんだけどね。屋台出したり、花火大会したり、織姫と彦星の二人が商店街を歩いたり、そんな感じ」
「凄いわね。織姫ズは魔界で会ってるのね」
「ズって。いや、いや、もちろん、本人じゃなくて、コスプレだから。本人はたぶん天界とかで会ってるんじゃないかしら」
「織姫ズも、天から自分たちを肴にしてはしゃいでる民衆を見てどんな気持ちなんでしょうね」
「なんかその表現だと二人組の姫さまユニットみたいで間違ったイメージしちゃんだけど」
「パチュリーでーす」
「えっ……あ、アリスでーす」
「二人揃って――我ら<<七曜魔女連盟>>なり」
「そこ織姫ズじゃないんだ!?」

「で、織姫と彦星って、なにやらかした子なの?」
「やらかしたって。なんか、色んな言い伝えがあるみたいだけど、えーと確かね。織姫が、機織りが上手なお姫様で、彦星が牛飼いで、二人の仕事っぷりが認められて結婚したけど、結婚したら遊んでばっかりで仕事しなくなっちゃって、それで神様が怒って二人を別れさせたって話」
「別に悪いことしたわけじゃないのね。遊んで暮らせるだけの財力があるなら、別に好きにすればいいと思うんだけど」
「……いや、うん。二人が仕事しなくなっちゃったから困る人がいっぱいいたのよ」
「どうして頼りきりなの? 二人ともそんな代理がいない仕事には見えないけど」
「えーと……きっと、レベルが全然違ってたのよ。あまりに名手だったから他に同じ仕事してた人が廃業しちゃってて、すっかり独占状態になってたのよ、きっと」
「伝説に残るほどの牛飼い名人ってどんな仕事するのかしらね。気になるわ」
「……何百頭くらいいたのを、一人で飼ってたとかじゃないかな」
「なるほど。それが野放しとなると大惨事ね。つまり七夕伝説というのは、能力を持つからには責任も発生する、という教訓を伝えるための寓話だったのね」
「そう……なのかな……」
「例えるなら、明日急に咲夜がうちからいなくなるような状態ね。確かにそれは、世界の崩壊に等しいわ」
「そこまで!? いや、咲夜の仕事っぷりは知ってるけど、でも咲夜が来たのってつい最近でしょうに」
「――人は有史以前、火も文字も持たない時代から生きてきたわ。だからって、今の人間がその時代に戻って生きられるわけじゃない。そういうことよ」
「咲夜一人で人類一万年分のスケールなんだ……」


「いや七夕について論じに来たわけじゃなくてね」
「ん?」
 お茶を飲み干して落ち着いたところで、方向転換。
 おかわりいかがですか、とタイミングよくやってくる小悪魔に一礼して辞退。
「もし、体調良かったら、星見に行かない? って誘いに来たの」
「ああ、そうだったの。体調は見ての通りよ」
「いやいつも通りでよくわかんないんだけど……」
「そういうこと、いつも通り。240キロワットくらいよ」
「ますますわかんないんだけど! 確かになんか元気さの単位っぽいけどっ!」
「こうやってドタバタするアリスを眺めて幸せを感じる余裕がある程度には元気ってことよ」
「ああそうねいつも通りねなるほどねっ」
 少し悔しそうに目を閉じつつも、まあ、元気ならよかったわ、とすぐに気を取り直す。切り替えの早さが紅魔館で会話をするためのコツである。
「でも、わざわざ見に行かなくても、紅魔館にも星が見える場所はいくらでもあるわ」
「あ、うん、そうじゃないの。魔理沙がね、天体望遠鏡出してきて張り切ってるから。今年こそはベガとアルタイルが出会う瞬間を目撃してやるぜって。で、せっかくだしみんなで一緒に空でも眺めつつ、願い事でもしてみようかな、という感じで」
「そういうことね。天体望遠鏡……そんな大物、盗むのも大変だったでしょうに」
「いやいや。望遠鏡は、魔理沙が小さい頃からずっと持ってるものなんだって。家出をしたときに真っ先に選んで持ってきたとか」
「……ああ。あの子、星、好きよね」
「うん。よかったら、天の川のこととか、いろんなこと質問してみて。もう、目を輝かせていっぱい語ってくれるわよ」
 アリスは軽く俯いて微笑んだ。
 ほんの少し苦笑いが混じっているのを見つけて、パチュリーも、くす、と小さく笑った。
「あの子は、一人なの? また巫女とかいろんな妖怪とか集まって、結局宴会になってたりしてない?」
「大丈夫だと思う。魔理沙は、星の観察のときはいつも静かにするのが好きみたいだから。……話すのは、いっぱい話すんだけど、その。賑やかにはしないっていうか」
「なるほど。アリスが言うのなら、間違いないわね」
「……だと、いいんだけど」
「アリスが魔理沙のことを語るのに、間違えるなんてことはないでしょ。逆も、ね」
「う……うーん」
 パチュリーは静かに本を閉じる。これが、回答だった。
 背後についていた小悪魔に、出かけてくるわ、と一言伝える。
「行きましょ。久しぶりに月の光も浴びたいしね」
「うん、ありがとうね」
「いいわ。外で話をするのも、新鮮でしょう。アリスには、私のことももっと知ってもらわないといけないし」
「……う……うん」
「私は、あの子ではとても教えられないような乙女の秘密も全てさらけ出す覚悟ができてるわよ」
「なんの話なの!? あえて外に出るときに!?」
「やっぱり、今のほうがいいかしら」
「それは、もちろん――いやいやいやいや、違うからそういう罠選択肢なしで!」



「お、来てくれたか。体のほうは大丈夫か?」
「大丈夫よ。……ありがと」
「おう。ま、夜なら割と外も過ごしやすいだろ?」
「そうね」
 魔法の森の少し外れ、山を登ったところに、木が少なく見晴らしが良い場所がある。人間はまず立ち寄れず、妖怪もあまり住んでいないという、静かに天体観測を行うには絶好の場所だった。
 魔理沙は立派な天体望遠鏡を構えていた。アリスとパチュリーがやってきた時にも望遠鏡を覗きこんでいたが、二人が着地する前に、気配を感じたのか目をレンズから外して、声をかけてきていた。

「……なるほど。ここまで見えるものなのね」
「だろーだろー、すごいだろー」
 レンズを覗きこんで、微かながら感嘆の声を漏らすパチュリー。天体望遠鏡を覗いたことがない、というパチュリーに魔理沙がさっそく薦めたのだ。難しい調整は終わっている。覗きこむだけではるか遠くの星がはっきりと大きく見える。
「ちょっと難しいけど」
 くい、と軽く本体を動かして、見える場所を調整する。軽く動かしただけなのに、見える範囲はまったく別物にまで変わる。微調整は容易ではない。
「ああ、近くに見たいものがあるなら、手で本体動かすんじゃなくて、そこのツマミを回すといい」
「ここ?」
「それ、それだ」
「ふんふん」
 魔理沙が教えて、それをパチュリーが素直に吸収していく。
 めったに見られない貴重な光景が微笑ましく、アリスは少し離れた場所からそれを眺めていた。
「日付が変わるまでもうちょっとあるから、存分に遊んでくれ」
「うん。たぶんあと三分くらいで飽きるけど」
「……お、おう」

 ほぼ三分後、望遠鏡は再び魔理沙の手に戻った。
「じゃ、天の川にしっかり照準をあわせて、と」
 活き活きと作業をする魔理沙の近く、丁寧にも準備されていた折りたたみ椅子にパチュリーとアリスは腰掛ける。
「あとは待つだけだ。せっかくだし、星の話でもしないか? なんでも質問に答えるぜ」
「質問」
「お、いいな、積極的な生徒は好感度大だ」
 パチュリーの挙手に、魔理沙が嬉しそうに指差し指名する。
「ここから100万パーセク以内の恒星のうちニッケルの存在量が一番多い星は?」
「すまんもうちょっと中級者向けくらいまでの質問で頼む」
「んー。じゃあ、水素のスペクトル系列で、可視光の中で一番波長が長いのはなに?」
「お前絶対自分の得意分野でテストしてるだけだろ。まあそいつは簡単だけどな。バルマー系列アルファ、656ナノメートルだ。星の観察には基本になる数字だから、」
「次、冬の大三角形で――」
「答えてるんだからせめて聞いてるフリくらいしてくれよ! あともう絶対七夕に絡めてくる気ないだろ!」
「わかったわ。聞いてるフリするから」
「いや宣言されてもさ」

 生徒としては極めてやりにくい相手に授業をしている間に、時間は過ぎていく。魔理沙が疲れた顔をしているのも、やむなしだろう。が、なんだかんだで星の話をたくさんできたためか、満足感はそれなりにあるようだった。
「そろそろ日付が変わるな」
 手元の時計を魔法の光で照らしつつ確認、魔理沙が宣言する。
「よし、それじゃ歴史の目撃者になってみようか」

「でも、伝説はあくまで伝説でしょ? まさか、本当に七夕になるとなにかが起きるなんてことはないんじゃないの?」
「おう。あえて今このタイミングまで引っ張ってきて言うか」
「えっ、あ……ごめんなさい」
 アリスは少し慌てて、首を横に振る。
「とりあえず一緒に星を観測してお話するための口実みたいなものだって、思ってたから……」
「いや、半分そうだけどな」
「そうなんだ」
「でも、わからないだろ。織姫も彦星もさ、二人が会うこのときを地上からみんな祝福してるって知ってるだろうしさ。だったら、会えたよって合図っていうかアピールっていうか、なんかやるかもしれないだろ」
「……ロマンチックなのか現実的なのかよくわからない意見ね」
 パチュリーの横槍に対しては。
「それを両立させるのが、魔法使いってやつだろ」
 自信満々に、魔理沙は答えた。
 不意を突かれて、パチュリーもアリスも、軽く驚き、言葉を失った。
「……い、いや、うん。今日のこれにはあんまり、魔法関係ないだろうけどさ」
 少し恥ずかしそうな魔理沙の声。
 もう望遠鏡を覗きこんでいるため、その表情は伺いにくい。
 パチュリーとアリスは、二人、同時に笑った。
「……なんだよっ」
「うふふ。別に」
「別に」
「むー」

「あっ」
 望遠鏡を覗いていた魔理沙が、声を上げた。
「見えたぞ」
「え?」
「ああ、天の川が、光ってる。これ、あれだ。橋だ、間違いない!」
「え? ――ここから見てるぶんには、よくわからないんだけど」
「同じく」
「まあ、見てみろって。これは大発見だぞ。さあ、早く!」
 魔理沙がパチュリーを手招きする。
 パチュリーは少し迷った様子を見せるものの、魔理沙の様子を見て、好奇心が上回った結果、腰を上げる。さあさあ、と魔理沙は手を引っ張って望遠鏡へと誘う。
「そこを覗きこむ感じだ」
「わかってるって」
 パチュリーがレンズを覗きこむ。少し前に練習していただけあって、スムーズな動作だ。レンズはしっかりと天の川、そして二つの明るい星を捉えていた。
「……普通なんだけど」
「いや、時々光るんだって。よく見てろ」
「んー……」
 魔理沙はパチュリーの横顔を、アリスは空をじっと見つめる。
 誰もが黙ったまま、数秒の静寂。
「あっ」
「お? 見たか? 見えたか?」
「見えたわ」
「すごいだろ? な?」
「そうね、凄いわね。はい、アリス、どうぞ」
「え? あ、うん……じゃ、私も」
 今も特になにも観測できなかったアリスは、パチュリーの勧めのままに交代する。
「なんだ、冷めた反応だな。感動はないのか?」
「そうかしら。歴史的発見の割には、お互い様じゃなくて?」
「……あーいや」
「あ、光った。……綺麗」
「だろ? だろ?」
「すごいわね、どういう仕組み?」
「えっ」
「そうね。微かに魔法の気配は感じるんだけど、魔理沙が今魔法を使った様子はないし。なかなか凄いと思うわ」
「……いや……いやまあ」
 あっさりと二人に詰め寄られて、魔理沙は乾いた笑いを顔に張り付かせる。
 しばらく口を半開きにしたまま、なにか言葉を探していたようだが、やがて観念したのか、がっくりと肩を落とした。
「せめて、少しくらいノってくれてもよかったのになー……」
「あら、凄いと思ったわよ、違和感あんまりなかったし」
「そうね。よくできていたわ」
「私が求めていたのは、そういう感動じゃなくてだな」
「まさか、魔女相手に魔法を使ってバレないと思っていたわけでもあるまいに」
「……うまくやったつもりだったんだけどな」
「うまくできてると思うわよ、ねえ、魔理沙、どうやったの、あれ? 気になるわ」
「そうね。それを聞かせてもらわないことには終わらないわね」
「お前らな……」
 ロマンチックと現実主義。
 どうやらその比率は魔法使いによってもいろいろと違うようだ。
 そんなことを思いながら魔理沙は苦笑いを浮かべつつ、天体望遠鏡の仕組みの解説とともに、中に仕込んだ発光フィルムと動作原理について解説するのだった。星の話よりもよほど真剣に聞く二人に対して言いたいこともあったが、ともあれ楽しんでもらえたならそれでいい。と、魔理沙は呆れつつも思うのだった。

「楽しかったわ。星の観察もなかなかいいものね」
「お前、あんまり星みてなかっただろ……」
「いいじゃない。星は逃げはしないわ。でもこの時間は貴重なものだったわけだし」
「そうそう。星を見ながら三人で話をしたってところに、意義があるのよ」
 パチュリーに続いて、アリスも嬉しそうに言った。
 そっか、と魔理沙は素直に頷く。
「でも次は、もうちょっと雰囲気のある会話もしてみたいもんだぜ」
「魔理沙はロマンチストね」
「そうね」
「……悪いか」
「ううん。でも、魔理沙、なんだかんだ言って、こんな準備してたってことは、自分でも天の川に本当になにかが起きるって信じてなかったってことじゃない」
「……あれはあれで、本音なんだぜ。毎年、なんにもないんだけどさ。だから、保険だな、保険。せっかく来てもらったのに、なにもなしじゃ寂しいだろ」
「あら、優しい魔理沙」
「ふふ、ありがとうね」
「……」
 魔理沙はふい、と顔を逸らす。
 帽子を深く被る。暗くて顔は見えにくいというのに、その仕草こそが魔理沙の表情をなによりよく表していた。
「それより願い事だ、願い事。せっかくだし最後に願い事してから帰るといいぜ。一応、そこまでが七夕のイベントってことで」
「短冊準備してるの?」
「いや、略式でいいだろ。星を眺めながらさ、心のなかで――」
「アリスがメイドになりますように」
「心のなかで!」
「いや心のなかで願われても困るんだけど私」
「……ったく」
 笑いながら、魔理沙は空を見上げる。
 ベガとアルタイル、そして天の川。もちろん、周囲には他にも無数の星がある。魔理沙は星空を見上げて、願い事を考える。
 たとえば――
「あっ」
「あ……」
「えっ?」
 そのとき、三人同時に、声を上げた。
 パチュリーとアリスは、魔理沙のほうを見る。魔理沙は、二人のほうを見て、首をゆっくり横に振る。
「……今のは、私じゃない。今、流れ星、見えたよな?」
「見えた」
「うん」
「流れ星、天の川を渡ってたよな?」
「そうね」
「……ふふ。私たち、本当に歴史の目撃者になっちゃった?」
「そうだな、これは、見てしまったな。あっ、しまった、願い事、するの忘れてたぜ」
「七夕と流れ星で二倍効果があったかもしれないのにね」
 アリスが笑いながら言う。
「私は間に合ったけど」
 パチュリーは落ち着いた声で言った。
「まじで」
 驚く魔理沙に、こく、と首を縦に振る。
「魔女は機会を逃さないものよ。二倍効果なら完璧でしょう。これでメイドアリスを二人確保できたわ」
「私一人しかいないからね!?」
「じゃあ、二生分」
「もう私生まれ変わり後の職業まで決められちゃうんだ……」
「――冗談よ。そんなことは願わなくても、その気になればいつでも実現出来るだけの手段は準備してるから、いちいち願ったりしないわよ」
「そ、そう。よかっ……よくない!? 割と聞き捨てならない言葉が!?」
「じゃあ、なにを願ったんだよ」
「……さあ、なにかしらね。案外、魔理沙と同じかもね?」
「え、じゃあ、来年も三人でこうして遊ぼうって――あ、いや……」
 しまった、と口を押さえる魔理沙だったが、当然、もう手遅れである。
 パチュリーの視線。
 アリスの視線。
 両方が、魔理沙にしっかりと向いていた。
 二人、申し合わせていたかのように、同時に笑った。
「叶うわね」
「間違いないわね」
 星と月の微かな灯りの下、魔理沙はしゃがみこみ頭を抱えた。
 こんな魔理沙を見ることができるなら、年に一回と言わず、もっと来てもいいかもしれない。魔女、パチュリー・ノーレッジの七夕の日記は、その一文で締めくくられた。
posted by 村人。 at 19:40| Comment(0) | TrackBack(0) | SS