2008年01月24日

ももせな。9

 さて、どういうわけか猫ミミメイドな千種と一緒に校内を歩くことになっている僕なのだが、普通に考えてこの状況は、非常に、恥ずかしい。
 千種の顔を見るといつもどおり何を考えているかわからない涼しい表情だ。とっくにわかっていることだが、どうも千種瀬名という人間は、感情というものが6割引くらいになっている気がする。アンバランスというべきか。喜怒哀楽で言えば楽だけが突出しているような感じだ。
 さて、この恥ずかしい状態でどこに向かっているかというと、自然の流れで数学部になっている。もちろん千種も僕も数学に目覚めたなんてことはなく、要するに十和田さんを見に行こうというわけだ。
 すれ違う人々の視線を感じまくる。潜めているつもりなのだろう声もちょくちょくと聞こえてくる。
 あれは千種さんだとか、ネコミミはやりすぎじゃないかだとか、あの男の趣味なんだろうなあ見せびらかしやがってとか、百瀬だし仕方ないとか、愛なら仕方ないとかえとせとら。
 うう。釈明したい。僕は悪くない。
 と、まあ何はともあれ数学部に向かう途中だったのだが。
「あ、ここ天文部」
 千種が立ち止まった。
「入りましょ」
 言うが早いか、僕の答えなど待たずに先に部屋の中に入ってしまう。
「……千種、星に興味あったっけ?」
「何言ってるのよ。百瀬の親友でしょ」
「ああ。そういえば天文部だっけ」
 なんとなく……というか思い切り視線を感じながら、天体写真が展示されているスペースの中を歩く。写真展示自体が壁になっているので部屋全体は見渡せない。
 千種が近くの部員らしき人に声をかけた。
「五十嵐君、いる?」
「いるぞー。ちょっと待っててくれ」
 返事は壁の向こうから聞こえてきた。
「やあその声はヴィクトリア千種さん。ようこそ天文部、美しき宇宙の世界へ――」
 声とともに、そいつは現れてきて。
 千種の格好を見て、固まった。
「お久しぶりね」
「僕も割と久しぶりだ。で、なんだ今の芸人みたいな呼び名は」
「お、おおう。これはこれは。文化祭当日から見せ付けてくれるじゃないか。ルミもやるようになったもんだ。千種さんも……なんというか、素晴らしい。いつもと違った魅力を感じる」
「そうでしょ。恥ずかしがりで心の中の褒め言葉を全然口に出してくれない百瀬の代わりにもっと褒めてくれていいわよ」
「何だって! いいか、ルミ、褒めるべきときはちゃんと褒めないとダメだ。それこそが心が繋がりあえる最大の武器であってだな」
「おい、待て、なんで僕の心の中が勝手に決められてるんだ」
 千種、まさかこれが狙いか……!?
「いいやわかる。俺にはルミの気持ちはしっかりわかっている。ああもうお前という奴は、どうして素直になれないのか。千種さんもさぞ苦労していることだろう。いいかルミ、お前のその変な突っ張り具合が……まあ、可愛いところではあるんだが……ケースバイケースだ。可愛いよの一言くらい言えなくてどうする」
 なんでこいつはこいつで千種の目の前でそんな話ができるのかと思うけど。
 五十嵐は、掌を千種の頭の後ろに、ばっと広げた。
「例えばこのミミ! さあ百瀬はどう思う。素直な気持ちを言うんだ」
 千種は平然とした顔のまま……しかし微かに口元も目元もニヤニヤするのが抑えられないという感じだった。千種は実にこういうときは表情豊かだ。
「いや……猫だなあ……とか」
「論外だ! いいか、ミミ自体が重要なんじゃない。千種さんがこの格好をしていることが重要なんだ。そこを踏まえておけばちゃんと踏み込んだ言葉だって出てくるさ。例えば……そう、シベリアンハスキーみたいで美しいよとか」
「犬だし!?」
「……お前は本当にツッコミのときだけ生き生きとするな」
 自分的には決してそんなつもりは。

 よくわからないそんなやりとりで静かだった天文部の展示会場に騒音を撒き散らした後、僕らは今度こそ数学部に向かうのだった。
 それにしてもシベリアンハスキーとは。
 なんというか、実に絶妙な表現だ。考えてみると。性格はともかくとして、千種をこれほど的確に例えることができる動物は他にないかもしれない。なんと上手いことを言ったもんだと思う。五十嵐のくせに。
 シベリアンハスキーの姿を思い浮かべてから、ちら、と千種の顔を見てみる。
 ああ。そうだ。うん。まさに。まさに。
 もう頭の耳も犬耳にしか見えない。
 どうしようこれからシベリアンハスキーを見るたびに千種を思い出してしまいそうだ。
 それにしても……絶妙だ……
 ちら。
「?」
 あ、目があった。
 じろじろ見ていたと思われると嫌なので、気付かなかったふりをしてさっと目を逸らしてみる。
「どうしたの? さっきからちらちら見てきてるけど」
 バレバレだった。
「さっきからちらちら見てきてるけど」
「復唱はもういいから」
「まあ、わかってるわよ。私をどうやって賛辞しようか悩んでいるんでしょう。人を褒めたことがない冷たい百瀬には難しいかもしれないけど、私はゆっくり優しく見守ってあげるわ。焦らなくていいのよ」
「……考えもしてなかった」
 だからなんなんだこの揺るぎない千種の自信は。
 それとも言葉の端々までしっかりとツッコんで欲しいんだろうか。どこまで本気なのかが非常に悩みどころだ。
「ああ、なるほど。私のこんな貴重な姿を見ることが出来たんだから見物料くらいは払わないといけないけどいくらにしようか迷ってたのね。一口1000円から受け付けるわよ」
「払うか! 見て幸せ見られて幸せ、それが健全なコスプレの姿だ!」
「さすが百瀬、常人より一歩上を行くツッコミだわ……」
 ふ、とカッコつけたように笑う千種。
 意味がわからん。
「ま、でも百瀬もちょっとは素直に思ったこと言ったほうがいいわよ。五十嵐君みたいにはそうそうなれないでしょうけど」
 む。
 千種がなんか真面目なことを言った気がする。
「……五十嵐のほうが褒めてくれて幸せなんだったら、今からでも五十嵐のところに戻って楽しんでくればいいじゃないか」
 ……
 あ、あれ?
 なんだか一瞬空気が変わった。
 ちら。千種の横顔を見ると、目を丸くして、きょとんとした顔をしていた。
 え、えーと。い、今のはまずかっただろうか……
 千種はまっすぐ前を見つめたまま、また落ち着いた表情に戻って、しかし相変わらず何も喋らない。
 少し歩いたところで、軽く口元を歪めるように、笑って言った。
「そうする」
「え?」
「百瀬、見張りの私がいなくなってもみーちゃんに襲い掛かったりしちゃダメよ。数学部に行く前にちゃんと弁護士事務所の電話番号を調べておきなさい」
「僕はどれだけ信用されてないんだ!?」
「じゃ、ね。楽しんでらっしゃい」
「え、本当に?」
「百瀬が言ったんでしょ」
「え、いや、うん……まあ、そう、かな……?」
「お土産は忘れないように。それじゃ」
 くるりん。
 素早く身を翻して、千種は……本当に、引き返して歩いていってしまった。
 ……
 呆然とするのは僕のほう。
 いや、そうだな。うん。合理的な判断だ。千種はあっちに行くほうが楽しくて、僕は一人で行くほうがたぶん何かといい気がする。もしかして千種なりに気を遣ってくれたんだろうか。
 さて、数学部は角を曲がってすぐだ。角についた時点で十和田さんの姿も見えるだろう。
「……」
 とりあえず、立ち尽くしてみる。
 冷静に考えてみる。
 合理的な判断。
 千種は天文部の展示会場に戻ってどうするつもりなんだろう。あの姿とあの調子で五十嵐と話し続けていたりしたら、目を引きまくりそうだ。真面目に展示を見に行ったつもりだった人も、つい目はメイドさんを追ってしまうものなのではなかろうか。一度気になりだすともう空のことなんて心に入ってこない。千種がその辺りの機転を利かせるとはとても思えない。
「それって、天文部員の迷惑になるよな」
 くるり。
 僕はここでUターンして、早くももう見えなくなっている千種を追った。
 まったく、僕がちゃんと見張っておかないといけないな。困ったもんだ。
posted by 村人。 at 21:38| Comment(14) | TrackBack(0) | SS
この記事へのコメント
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みいはあまえんぼでかまってもらうのがすきです
Posted by 過激に卑猥 at 2012年03月15日 16:34
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えっちなこと妄想させて欲しいな・・・すごく興奮しちゃうの☆
Posted by 開発してください at 2012年03月31日 14:02
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経験もあまりなくて・・わからない事がたくさんなので優しくリードしてください
Posted by いっぱい(笑 at 2012年10月20日 17:00
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こんなひなを慰めて下さいね
Posted by ひな☆にゃは! at 2012年11月04日 04:08
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今日楽しい時間を過ごせたら嬉しいですっ
Posted by 寂しがり屋なの at 2012年11月25日 23:13
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ちょっと天然!?甘えたです★
Posted by 不倫願望 at 2012年12月20日 20:41
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見た目よりエ口いと思います^^
Posted by 要チェック at 2013年01月04日 12:09
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すぐにあれがヒクヒクしちゃうんです…。
Posted by 楽しもうね at 2013年01月15日 12:18
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体は正直よ。隠し通せると思っているのかしら?
Posted by 経験させて at 2013年01月31日 23:12
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アレの周りは触られただけで濡れちゃいます
Posted by 妊婦です☆ at 2013年02月06日 18:44
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素敵な彼氏になってくれますか?いちゃいちゃしよ〜よっ☆
Posted by ね??? at 2013年02月07日 17:10
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実は意外に大胆だねってよく言われちゃいます
Posted by かなりのM at 2013年04月21日 14:57
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しばらく彼氏がいないので、寂しいです
Posted by 綺麗なお姉さん at 2013年10月14日 14:08
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にゃんにゃんしたい。。。
Posted by いーい? at 2013年10月29日 01:25
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