2013年05月19日

文花事件(新聞大会事件史 File.22)

あやはたSSです!
ラブコメではないのですがまあ相変わらず軽い感じで読んでいただけるものでございます。
あやはた!

http://murabito.sakura.ne.jp/scm/SS/bunkajiken.html


……えーはい、ご無沙汰しております。すみません。本当。
やることがいろいろと増えてきていよいよ創作もなかなかできなくなってきてますが、それはさておいてもまとめをサボってるのは単なる怠慢ですごめんなさい。

もちろん……い、いや……私はっ! 今回の長期不更新でもっ!
なんの成果も上げられませんでしたあああああああ!!

たぶん長い休みとかにちょくちょくなにかしらやってく形になるのかなーと思います。
細々とやっていきますね!
posted by 村人。 at 18:55| Comment(0) | TrackBack(0) | SS

2013年01月06日

おとなまりさ

*クリスマスSSですが、そういえばまだ掲載していなかったので……





「クリスマスパーティだけど、アリス食べ放題とかどうかしら」
「お前はなにを言ってるんだ」

 紅魔館図書館での会議は、パチュリーの、だいたい平常運転の言葉で始まった。
 いつもは三魔女揃って始まる話し合いだったが、今日は珍しく、アリス抜きの会合となっていた。魔理沙の冷静なツッコミに対して、パチュリーはため息をつく。
「やっぱり魔理沙はまだまだね。これがアリスだったら、『ばっ、ばか……もう……抱いて!』ってなるのに」
「私の知ってるアリスと違う」
「ま、アリスは私にしか本当の姿を見せないから」
「とりあえず、お前とアリスの会話は相当面倒そうだなってことはよくわかったが……」
 半目でパチュリーを睨みつけつつ。
「一応冷静に言っておくが、アリスは食べ物じゃない」
「なに言ってるのよ。食べるって言ったら性的な意味でに決まってるでしょ」
「せいっ……!? ……い、いや……つまり、どういうことだよ」
「とぼけちゃって。魔理沙だって、どういうことかくらいわかってるでしょうに。もしかして、もうしてるんじゃないでしょうね」
「してるかっ! お前じゃあるまいし――」
「ほら、やっぱり。どういう意味かわかってるじゃないの」
「……あー……あー……うー」
 パチュリーの指摘を受けて、魔理沙の声が急激にしぼむ。
 わかりやすいほど頬は赤くなる。顔は嘘をつけないようだった。
 ふふ、とパチュリーは薄く笑う。
「アリスはあなたのこと、こういう話にはまったく縁がない純情娘だって思ってるみたいだけどね。魔法使いなんてやってるのに、無縁でいられるわけもないじゃない。ねえ?」
「……いや……でも、そんな、別に」
「あなたも本当はアリス見て、抱きつきたいなーとか、抱きつかれたら気持ちよさそうだなーとかくらいは思ってるんでしょ」
「……う……まあ……それくらいは」
「箒にまたがっててときどき気持ちよくなってたりするんでしょ、ほら正直に白状しなさい」
「へぁっ……!? そ、そんなことは、してない……ぜ」
「へえ。そんなことってなにかしら。私は気持ちよくなったりすることがあるんじゃないかって言っただけで、なにかをするなんて言ってないんだけど」
「……」
 ここに至ると、魔理沙はもう真っ赤になってうつむいている。
 うう、と喉の奥で声を漏らしてから、上目遣いで、対面に座るパチュリーを睨みつける。
「悪魔かお前は」
「だって、三人一緒だとアリスは絶対こんな話させてくれないもの。そろそろ面倒だからちょっと暴いてみたくなったのよ」
「……なにが面倒なんだ」
「魔理沙は知らないでしょうけど、私とアリスと二人だけだったら、九割方エロトークしかしてないわよ」
「いや……さすがにそれは嘘だろ」
「まあ嘘だけど」
「……」
 露骨に安心した顔を見せた魔理沙を見て、くっくっと隠さずにパチュリーは笑う。魔理沙は自分の失態に気づいて、ぐ、と表情を歪ませてから、睨みつける。が、顔はゆでダコ状態であり、迫力など全くなかった。
「でも、私には割と正直にそういう話をしてくれるのは本当」
 事実は、アリスもまた流されてつい、という流れになることがほとんどだったが、あえてパチュリーはそこには触れない。
「あんたの前じゃ、アリスそんな素振りも見せないでしょ」
「……」
「いつまでもお子様扱いだからね。過保護っていうか。いいんだけど、私もちょっと遠慮するのが面倒になってきたのよ」
 パチュリーは、微笑みながら、魔理沙の目を見つめる。
「だから、そろそろ素直に認めてもらおうと思ってね。魔理沙もむっつりなだけで本当はえっちなことにも興味があって、そんな話にも加わりたいって」
「……いや……別に……そんな」
「『私は本当は年中二十四時間いやらしいことばかり考えてる女の子です。今まで隠しててごめんなさい』――はい復唱」
「言うかっ! それはただの変態だろっ」
「私は毎日八時間くらいはアリスを性的に弄ぶ想像してるわよ」
「変態だー!?」
「それくらいしないでアリス好きを名乗られても困るわね……」
「名乗った覚えもないが少なくとも私だったらそれくらいされるとしばらく身を隠すぞ」
「なるほど、つまり身を隠さないアリスは私が実行に移すのを本当は待ってるだけ……と?」
「言っておくがあいつは死ぬほどお人好しなだけだ」
「知ってる」
「……ああそう」

「で、クリスマスパーティだけど、アリス食べ放題とかどうかしら」
「だからお前はなにを言ってるんだ」

「いいじゃない。魔理沙も素直になってしっかり私達の絡みを見学してなさい」
「私は見学かよ! ……いやツッコミ間違えた。そんなことはしないからな」
「なんでよ、見ていけばいいじゃない。一生もののネタになるわよ」
「そんなこと人に話せるかっ!」
「ネタっていうのはそうじゃなくてね……ああ。こういう言葉は知らなさそうね、あんた。よく考えるのよ、あんたがいつも想像してるアリスの裸体やエロく乱れる姿が実際に見れるのよ、こんな機会そうそうないでしょ」
「してないからっ!」
「本当に? 一回も?」
「……」
「もう本性はバレてるんだし、素直になればいいのよ」
「……本性とか言うな。その……そりゃあ……ちょっとくらいは、興味、だって、あるけどさ……普通だろ、それくらいは……」
「別にだから責めてはいないでしょ。興味あるなら楽しめばいいじゃない。はっきり言って、魔理沙がいると一切エロワードが禁止になるせいでたまに狂いそうになるのよ私」
「お前のそれは病気だと思うが……」
「初めはみんなそう言うのよ」
「せめてお前が末期の例であってほしい」
「ちょっと、さすがに咲夜と一緒にされるのは心外だわ」
「さりげなく酷いこと言うなおい」
「ああ、ちょっと魔理沙をメイドにしてみるのもいいかもしれないって思ってきたわ。一ヶ月後の魔理沙がどう生まれ変わってるか、心底楽しみだわ」
「いったいなにが起きるんだ……」

「で、クリスマスパーティなんだけど」
「アリス食べ放題はもういいからな」
「――なんの話、してるのよ……」
 パチュリーの言葉を魔理沙が遮った、その直後。
 そこにいないはずのもう一人の声が、割り込んできた。
 パチュリーは「あら」と平静に返すだけだったが、魔理沙はびくっと震えてそのまま固まってしまう。
 横から現れたアリスは、魔理沙の様子を伺ってから、今度はパチュリーの顔を見て、深くため息をついた。
「なんか、変な話してたでしょ」
「さあ、なんのことかしら」
「もう、魔理沙に変な話しないでって言ったでしょ。ほら、なんか魔理沙赤くなってるし……大丈夫?」
「お、おお、だ、大丈夫だ……」
「アリス、魔理沙ももう大人の階段を登りつつあるのよ。そんなに心配しなくても――」
「ほらやっぱりそんな話してたのね。魔理沙、こんなに動揺してるじゃない。ダメよ、魔理沙に変なこと言っちゃ。寒いのに汗もかいてるし……大丈夫じゃなさそうじゃない。魔理沙、ちょっと休んだほうがいいんじゃない? なにか変なこと聞いて頭ぐちゃぐちゃになってるかもしれないけど、とりあえず寝て忘れてもいいのよ。一人で帰れる? 送ろうか?」
「い、いや、いや、大丈夫だって。ちょっと……びっくりしただけだからな」
「でも、さっきよりまた赤くなってきてるし……」
「も、問題ないっ」
 頬に手を伸ばそうとするアリスを、首を横に振って魔理沙は遮る。
 アリスは、それを見て、少し寂しそうに手を引いた。
「……本当に大丈夫なの?」
「……ああ。びっくりしただけだ、本当に」
「そう……」
「ねえ、アリス。私達、ちょっとね、アリスへのサプライズプレゼントについて話していたところなの。だから、申し訳ないんだけど、もうちょっとだけ席を離してもらっていいかしら」
「……そうなんだ。なんかもうサプライズじゃなくなっちゃったけど……ありがと。わかった、けど、魔理沙にあんまり変なこと吹きこまないでよ?」
「はいはい、わかってますって」
「……」
 アリスはまだ心配そうに魔理沙の顔を眺めていたが、魔理沙が、大丈夫だ、大丈夫だと繰り返したのを聞いて、渋々といった感じで、引いた。
「じゃ、また後でね」
「ごめんな」
「ううん、プレゼント楽しみにしてるわ」
 最後に笑顔で言い残して、アリスが去る。
 それを確認してから、魔理沙はテーブルに突っ伏した。
「……恥ずかしい……」
「さっきまであんな話してたところに本人だものね。なに、なんか想像しちゃった?」
「……うー」
「に、しても、魔理沙も大変ね、あれはあれで」
「……」
「正直、妹か、最悪、娘だと思われてる感じよね」
「言うな……わかってる……」
「真面目に、私が協力してあげないと、あんたずっと純情派箱入り娘扱いじゃないかしら」
「……」

 テーブルから、魔理沙は顔を上げる。
 まだ迷いのある目だったが、小さな声で、場合によっては、頼む、と呟いた。
 パチュリーは微笑んで、よし、と首を縦に振った。

「じゃ、アリス食べ放題の話なんだけど」
「頼むからそこからは離れてくれ」
posted by 村人。 at 21:29| Comment(4) | TrackBack(0) | SS

2012年11月11日

ラスト九百フレーム

文とはたてさんのSSです!
約80kB。友達レベルのあやはた。
ひとつの事件をめぐって、念写というものを描いたお話になります。

http://murabito.sakura.ne.jp/scm/SS/last900.html
posted by 村人。 at 16:41| Comment(0) | TrackBack(0) | SS

2012年09月23日

小悪魔さんの平凡な日々

「魔法植物図鑑の山岳編の中巻が見当たらないの。探してもらっていい?」
「はい! もちろんです! ええと、魔法植物……」
 パチュリー様のご要望を受けて、すぐに手帳を開きます。
 手帳には素早く本を探すための目録を作っているのです。と、言っても、残念ながらまだ未完成なのですが。
「図鑑、だから、えっと……たぶん事典関係のコーナーで……あ、たぶん、このあたり……B館ケ〜ソのあたり、ですね」
「そうね。私もそのあたりを探したんけど」
「あらっ……探してきますね」
 むう。
 さすがパチュリー様です。図鑑がありそうなコーナーは把握されていたようです。私の目録はあまり役に立ちませんでした。よくあることなので気にしません。くすん。
 広い図書館をさっと飛んで、左奥のエリア、B館に向かいます。紅魔館の図書館はあまりに広大なので、AからCまで三つの図書館に分割されています。一つ一つがちょっとした街の中央図書館と同じくらいの規模です。凄いのです。
 えっへん。
 私が凄いわけではないです。調子に乗りました。すみません。
 ふらふらと五分くらい飛んで、B館です。
 さらに目的のコーナーまで飛んで、ここからは地味に捜索です。一応、ある程度似たジャンルごとにコーナーをさらに細かく分けているので、図鑑関連のエリアに絞ればそこまで気が遠くなるほど広いわけではありません。
 明かりをつけて、慎重に探します。見逃してしまうと大変なことになるので、焦らず、慎重に。
 ……

 見つかりませんでした。
 かれこれ三十分は探しましたが、ありませんでした。
 困りました。
 念のため両隣の本棚も頑張って探してみましたが、影も形もありません。影や形だけあっても困りますけど。
 がっくり肩を落として、帰ります。ともあれ、報告しないといけません。かっこよく、見つけてきましたーと本を差し出したかったのですが、無念です。いえ、それ以上に、本格的な大捜索をしないといけない可能性を考えると、恐ろしくなります。広さは怖さです。
 うう。
 また五分かけて図書館の閲覧エリア、パチュリー様の指定席に戻ります。パチュリー様はいつものように本を読んでおられます。あの落ち着いた表情を、私の報告で曇らせることになるかもしれないと思うと、気が重くなります。
 ……うう。
「……パチュリー様、申し訳ございません」
「あら。遅かったわね。本、見つけたわ」
「はい、それが、探したのですが、どうしても見つから――え?」
「返却コーナーに積まれてるのをなんとなく見てみたら、紛れてて」
「……え」
 なんということでしょう。
 返却コーナー。ということは、どなたが少し前まで借りていたということで。
 当然、それは、私は管理できていないといけないわけで。
 ……あ、そういえば、確かに、記憶の片隅に、なんとか図鑑が最近借りられたという事実が、ある、ような。
 いえ、もちろん、記録は残しているのです。残しているのです。
 記録を確認すればわかることだったのです。本のタイトルを聞いたときにさっと思い出していれば、一分で解決している問題だったのです。
 がっくりです。
「……うう。すみません、パチュリー様……私はダメな子です……ダメ悪魔です……」
「いえ、私もここを見てればよかったわね。手間を取らせてしまったわね」
 ああ。パチュリー様なんとお優しい。……ぐすん。
「私の記憶がもうちょっとマトモなら、すぐにお渡しできたのです。私はダメでした……ダメダメでした……駄小悪魔でした……」
「なんかゆでダコ状態の悪魔を連想する響きね」
「……うう。次は迷惑おかけしないように気をつけますっ」
「うん。だから、そんな気を張らなくてもいいから。見つかったからよかったじゃない」
「……ありがとうございます……ぐす」
「あ、そうだ、ついでにもう一冊探して欲しいんだけど、いいかしら」
「……頑張ります」
「私の書いた本なんだけど、確か『氷系魔法の触媒としての水仙の作用の研究』という感じのタイトルで――」
「A館イ1779ですね。取って参ります」
「……え、あ……うん」
 ああ。
 すぐに汚名返上の機会を下さるパチュリー様の慈悲深さ。
 つい、甘えてしまいそうになります。いけません。


 小悪魔です。名前は、秘密です。
 図書館の管理などさせていただいております。……たった今ご覧になっての通り、あまり、有能では、ありません。うう。地元でもそんなに成績優秀だったわけではありません。ここに呼んでいただけたのは、本当に、ただの幸運でした。
 広くて本がたくさんあるので大変ではあるのですが、それでも、長いことやっているのです。もう少し、その、手際よくやりたいものです。
 もうちょっとしっかりしたシステムを構築して楽にできないものか、とパチュリー様はおっしゃいますが、私には今以上の改善など思いつきません。頭はあまりよくないのです。
 貴女ならできそうなものだけど、なんて、パチュリー様は嬉しい言葉を下さるのですが、とても、とても、とても、とても、とても、過大評価以外の何物でもありません。私には、私には。
 でも、せめて、少しずつでも学習して、しっかりしていかないと、ダメですね。いつか、優秀な人に取って代わられてしまうかもしれません。それは、とても寂しいことです。
「おーす」
 少し寂しい気分を抱えたまま今日も目録の整理をしていると、聞き慣れた声が背中からかかりました。まあ、来るのはわかっていましたが。
「こんにちは、魔理沙さん」
「おう、今日もお疲れ様。パチュリーはいないのか?」
「パチュリー様は、ただいまお休み中です」
「おう、そうか。相変わらず時間がデタラメだな。ここに住んでると仕方がないかもしれんが……一応、真昼だからな」
「魔理沙さん、ここは悪魔の館ですので。本来、夜が活動時間だというのはおかしな事ではありません」
「でも、ここもだいたいみんな、昼間行動だよな」
「まあ、そのほうが、健康的ですし」
「健康的だな」
 魔理沙さん、パチュリーさんの姿が見えなくて、少し残念そうです。そのお気持ちはよーくわかります。わかります。
「ま、いいや、ちょっと探しものがあるんで、お邪魔していくぜ。……おっと、そうだ、この図書館って、和算の本は扱ってるか知ってるか?」
「……わさん? えーと……それは、どういう」
「ああ、いや、いい、探してくる。じゃ、な」
「……」
 うぐぐ。
 よくわかりませんが、また私は、仕事ができなかったような感じです。
 魔法使いの使う言葉はある程度聞き慣れてきているはずなのですが、なかなかまだ知識が追いつきません。悲しいかな、これが私の現実。
 いじいじ。
 切なくて、床に魔法陣なんて描いてしまいます。
 私なんて。私なんてー。
 だー。
 ……あとで、わさんというのを調べておきましょう。

 りん。
 昨日に引き続いて仕事ができなくて打ちひしがれている私の耳に、小さなベルの音が聞こえてきました。私はほとんど反射的に、手に持った丸くて平べったいアイテムを耳元に当てます。
 通信機です。割と貴重なものです。魔界から持ちだしてきた秘密道具です。
「どうぞ」
 短く一言、呟きます。通信機からは、すぐに声が帰ってきました。
『アリスさん、来ました』
「了解。荷物は」
『いつもの袋と、それとは別に、四角いバスケットを』
「お菓子ですね。四角いということは焼き菓子ではなく生菓子でしょう。連絡ありがとうございます。そのままさりげなくアリスさんを追って、次の連絡を待ってください」
『はーい!』
 通信機を切ります。
 ちなみに通信相手は妖精メイドの一人です。私が信頼する一人を選んで、彼女だけに渡しています。妖精にしておくのがもったいないほど、よく出来る子なのです。
 どうやら忙しくなりそうです。パチュリー様に連絡をしないといけません。
 パチュリー様はお休み中です。下手に起こすわけにはいきません。しかし、アリスさんがお菓子を持って来られているのです。おそらく、それを逃すことは望まれないでしょう。
 こんな時のために、私の裏技です。
<――パチュリー様、アリスさんが、来られてます。ケーキもあるようです。いかがいたしますか?>
 私の言葉を、パチュリー様の「夢の中」に送ります。裏技です。パチュリー様が目を覚ます意図があればすぐに目を覚ますこともできますし、その意図がなければそのまま睡眠を邪魔することなく眠りを継続させることもできます。
 私程度の小悪魔でこの技が使えるのはとても珍しい、そうです。少し誇らしいです。誰にでも少しくらいは特技はあるものです。まあ、頑張って最近覚えたばかりなんですけど。
<――起きる>
 返事を確認しました。
 私はすぐに通信機のスイッチを入れます。
「こちら小悪魔。連絡です」
『早いですねー』
「時間を稼ぎます。アリスさんを足止めしてください。……あなたは、この間アリスさんに裁縫を教えてもらったはずなので、そのあたりで少し質問があるとか、そんな感じで」
『わっかりましたー! お任せあれ!』
 通信を切ります。
 パチュリー様が目を覚ましてから着替えるまでにまだ少し時間があります。この時間を無駄にするわけにはいきません。
 図書館の奥には魔理沙さんがいます。私は図書館を出て、廊下に出てから、少し大きめの声を出しました。
「咲夜さんー」
「呼んだ?」
 ……さすがです。
 名前を呼んで一秒。そこに立っていました。私もこの方のようになりたい。
 理想の従者とは彼女のことを指すのでしょう。私にはとてもとても超えられない壁です。
「アリスさんが来られます。魔理沙さんもいます。お茶を三人分、十五分後に図書館までお願いします。パチュリー様は寝起きになりますので通常より少しミルク多めでお願いします」
「わかったわ。十五分後ね」
「はい」
 答えると、すぐに咲夜さんは姿を消しました。
 見事な素早さです。完璧メイドです。超人です。
 さて、羨んでばかりいないで、次はパチュリー様の部屋に向かいます。
 部屋の前につく頃には先ほどの連絡から五分経過したくらいになります。ちょうど着替え終わったタイミングになるでしょう。
 あとは髪を整えるお手伝い。これは私の役割です。パチュリー様の長い髪はご自身ではとても扱い切れない状態になっています。素早く、綺麗に。この仕事を私が任されているのは、とても誇らしいことです。私は、この程度のことしかできませんし。

 よし、完璧。相変わらず、お美しい。くーるびゅーてぃ、です。
 パチュリー様のお姿をしっかり確認。ここまで咲夜さんへの連絡から十分。すぐに移動すれば三分後には図書館に着きます。
 パチュリー様の後ろにつきながら、密かに通信機に連絡を入れます。
「こちら小悪魔。連絡です」
『あ、はい』
「時間稼ぎ、終了です。ごめんなさい、話の続きはまた別の機会にしていただければ」
『了解でーす! 大丈夫ですよー』
 通信を切ります。
 これで、だいたい五分後くらいにアリスさん到着でしょう。


 まず、パチュリー様が。続いてアリスさんが。
 そして予想通り、二人の気配を感じたのか、図書館の多くから魔理沙さんが姿を表しました。
 ちょうどそこに、咲夜さんの紅茶が届きました。咲夜さん、完璧です。さすがです。
「あれ、パチュリー、寝てたんじゃなかっ――」
「ごめんなさい魔理沙さん、私の勘違いでした。少しお散歩中だっただけのようです」
「なんだ、そうなのか。散歩はいいな。うん。健康的で」
 あとは取り出されたケーキで三人が盛り上がるのを確認しつつ、私は仕事に戻るだけです。魔法使いの方々の邪魔になってはいけません。
 私ももっと勉強して、少しでも彼女たちの言葉が理解できるようになれば、もう少しお役に立てるかもしれません。今はひたすら、励むのみです。


 小悪魔です。図書館で働かせていただいております。
 お恥ずかしながら、私の日常を少しご覧になっていただきました。
 優秀な方々に囲まれた平凡な私が孤軍奮闘という状態で、まだまだついていくので精一杯ですが、いつか、貴女がいてくれてよかった、なんて思われるような活躍をしてみたいものです。
 頑張るぞ。
posted by 村人。 at 21:47| Comment(0) | TrackBack(0) | SS

2012年08月19日

さあ飲んで……私のラー油……

 餃子・オン・ステージである。
 広いテーブルの上には、ずらりと焼き餃子が並んでいた。何人前だろうか。とりあえず、数えるには少なくとも腕が十本ほど必要そうだ。
「さ、どうぞ」
「どうぞ言われても。何祭りなのよこれ」
 隣に立ち、例のごとくの涼しい声で告げる咲夜に対して、ただ一人テーブルにつくアリスは、ともあれツッコミを入れるところから始めた。

 頼みごとがある、と咲夜に呼び出されて、何事かとやってきたら、これである。
「あ、心配しなくても、これがお礼の先払いなんてわけじゃないから、気にしないで」
「一応安心しておくわ」
「あと、タレとラー油もちゃんとあるから」
「それは別に心配してなかったけど」
「ラー油もあるから」
「なんで被せてきたのかわからないけど。で、とりあえず、餃子だけ、と」
「オンリー・ギョウザです」
「英語にされても。私が食べるの?」
「ぜひ」
「……まあ、ありがたくいただいておくわ。お茶はあると嬉しいんだけど」
「紅茶でいい? それともラー油?」
「ぜひとも紅茶でお願いしたいんだけど。お茶じゃない選択肢を入れないで欲しかったんだけど」
「レモンかミルクかラー油入れる?」
「入れるかっ! ……いや、ミルクは欲しいけど。どこの世界のお茶にラー油が入るのよ」
「ラーティ」
「それっぽく言われても」
「すぐにお持ちしますわ」
「ミルクティだからね! 一応念押ししておくけどね!」


「……ごちそうさまでした」
「あら、もういいの? まだまだたくさんあるんだけど」
「私をニンニク漬けにしたいのかあんたは」
 餃子は、美味しかった。
 間違いなく美味しかった。その意味では、十分に満足である。改めて咲夜の腕前に感動したほどだ。が、どれだけ美味しくても、こればかりを延々と食べていれば、飽きる。
「お土産として、魔理沙にも持っていってあげない? 喜ぶんじゃないかしら」
「冷めちゃうし。それなら魔理沙も誘ったほうがいいんじゃ」
「とりあえず、ラー油だけでも持っていってあげない?」
「かなりありえない選択肢なんだけど!」
 ふう、と息を吐く。
 餃子だけでも、これだけ食べれば腹は相当に膨れる。アリスはゆっくりと顔を上げて、咲夜のすまし顔を覗き込む。
「で? お願い事って、余りまくってるラー油の処分とか?」
「……」
 アリスがまっすぐに言うと、咲夜は表情を動かすこともなく、ただ沈黙した。
 数秒。微動だにせずアリスの顔を見つめてから、ゆっくりと首を横に倒した。
「魔界人は、心を読む能力まで身に着けているの?」
「わかるわっ! どんだけラー油強調してたと思ってんのっ!」
「魔界怖い」
「魔界関係ない!」
「アリスこわい」
「怖くないっ! ……怖くないからね?」
 一度張り上げた声を落として、言い直す。わざわざ若干引きつった笑顔を浮かべながら。
 ふむう、と咲夜は意味のよくわからない相槌を打った。
「アリスは、怖いと言われるのをずいぶんと気にする、と……」
「うっ……い、いいじゃない、色々あるのよ、色々」
「ふむ。人形劇のときとかに、子供に怖がられたりすると面倒だから、とか」
「……まあ、そんなところ」
「もしくは部屋が人形まみれなのを人間に見られてものすごく気味悪がられてそれ以降よそよそしくされた経験があるとか」
「……そんな感じのことも、なくはないけど」
「普段人と普通に話すときはあんまり表情出さないでクールに話すから、実はアリス自身が人形なんじゃないかなんて噂を立てられたりしてトラウマになってるとか」
「あんたこそエスパーかっ!? そんなこともあったわよ! ていうかどんだけここに食いついてきてるのよっ! ラー油の話でしょ!?」
「ラー油? 飲む?」
「飲むかっ!!」

 とりあえずまずは片付けを、ということで咲夜が皿を片付ける。
 約三秒で。
「……で、そもそも、なにがあったらラー油がそんな余る状態になるのよ」
 当然の疑問をアリスが切り出す。
 確かに調味料の中では余りやすいほうかもしれないが、大量に余るというシチュエーションは考えにくい。自分で作ったのであればある程度はありうるか。
「安かったのよ」
 アリスが色々と想像している間に、シンプル極まりない返答が返ってきていた。
「……は?」
「安かったの。かなり。なんか事情があって大量に入荷しちゃって、仕方ないから大安売りだって、言ってた」
「はあ」
「で、買った」
「はあ」
「ラー油といえば、餃子でしょう。他に思い浮かばないし」
「まあ……そうね」
「で。まさかお嬢様に餃子を食べさせるわけにはいかないでしょ」
「……」
 アリスは咲夜の言葉に、一瞬首を傾げかけたが、すぐにその意味に気づいて、あっと声を上げた。
「そうよ! なんか違和感あるなあって思ってたけど! なんで吸血鬼の家で普通に餃子作ってるのよっていうかニンニク入れてるの!?」
「ニンニク入れたほうが美味しいでしょ?」
「美味しいとか美味しくないとかじゃなくて! あなたの主人はそれで大丈夫なの?」
「だから、お嬢様には餃子は出してないのよ。ただでさえ最近ニンニクの匂いがするって悲しそうな顔してるのに」
「……うん。ちょっと待って。まとめさせて」
「?」
「えー、あなたは、ラー油を買った」
「うん」
「ラー油といえば、餃子である」
「そうよね」
「餃子は、ニンニクを入れないと、物足りない」
「当然」
「吸血鬼は、ニンニクが苦手である」
「常識ね」
「あなたの主人は、吸血鬼である」
「そこも、疑ってはいないわ」
「なんで買った!? なんでラー油買った!?」
「安かったから」
「やだこれだけ時間かけて平行線……泣きそう」

「ちなみにパチュリー様も油っこいのが苦手で。妖精メイドはそもそも気が向いたときしか物食べないから消費能力はなし」
「……」
 もう一度、何度か繰り返してきたツッコミを入れたくなるアリスだったが、それが無意味であることはもはや明確であった。よって、ここはぐっと我慢である。
「……美鈴さんは? あの子なら、喜んで食べそうだけど」
「そうね。三日目くらいまでは喜んでたわ。四日目から明らかに表情が翳ってきてたから、この感触だと一ヶ月が限度かなって感じだけど」
「限度三回くらい超えてるでしょそれ!? きついと思った時点でやめてあげて!?」
「というわけで、平和裏に解決するために、ラー油をうまく消費する手段を考えてほしいのよ」
「あーうんよくわかったわ。わからないことばっかりだけどよくわかったわ」
 ぐったりと疲れた声で、アリスは呟いた。
 なにかを諦めたような響きがそこにあった。
「でも、一番簡単なのは、売っちゃうか、知り合いに配ることじゃないかしら」
「そうなんだけどね。ラー油って、そんなたくさん使うものじゃないでしょ。いっぱい貰っても、困るじゃない?」
「そうねなんで買うときにそこに思い至らなかったのか恐ろしく疑問ね」
「というわけで、餃子以外にお勧めのメニューはないかしら。大量にラー油を消費しつつ、まったく辛くないものが理想なんだけど」
「もう帰ってもいいかしら」
「そこをなんとか」
「いやいくらなんでも辛くなるのは仕方ないでしょ……そこは認めてもらわないと」
「お嬢様、辛いものも苦手なのよ」
「だからなんでラー油買ったのー!?」
 耐え切れない悲鳴が、広いダイニング――食堂と呼ぶべきその空間に、響き渡った。

「えー」
 またお茶を飲んで少し落ち着いてから、アリスは咲夜に向かい合う。
 とりあえず咲夜が立ったままだと話がしにくいとのアリスの要求により、二人とも椅子に座って話をすることになった。
「わかりきった結論を言えば、そんな都合のいいメニューは私は知らないわ」
「魔界の叡智を集めてなお、不可能だと?」
「あなたは魔界をなんだと思ってるの……」
「あ、それじゃ、魔法の研究の材料に使えたりしない?」
「……私も魔法使いとしてそこまで歴史があるわけじゃないけど、ラー油を使う魔法っていうのは、聞いたことないわね……」
 一応は真面目にこれまでに出会った魔法を思い出しつつ、頭を抱えてアリスは答える。
「なんか、武器にならなりそうな気がするけど」
「武器」
「いや、うん。そんな真面目に受け取られても困るけど。魔法よりはまだ可能性が……あるようなないような」
「ふむ」
 咲夜は視線を下げて、手を口元に添える。
 なるほど、と呟く。
「確かに。ラー油を塗ったナイフで心臓を刺せば、確実に人は死にそうね」
「そうね。ラー油全然関係ないけどね」
 咲夜の提案はさておくとしても、ナイフにラー油というのはなくもない発想だな、とアリスは口には出さず思うのだった。滑りはよくなりそうだし、なにより傷口からラー油が入り込んでくると思うと、かなり、気持ち悪い。ぜひとも、そんなことはやってほしくない。
「――ともかく、いきなり大量に使うなんて無茶な話よ。そんなアイデアもないし、私にはちょっと手が出そうにないわ」
「そう……」
「……」
「……」
「……ま、まあ、ちょっとは調べてみるけど、ね。最悪の場合、油は油なんだし、燃料にはなるんじゃないかしら。たぶん屋外で使ったほうがいいと思うけど。間違ってもランプには入れないほうがいいとは思うけど」
 ほんの少し視線を下げて、微動だにしない咲夜の様子を見て、アリスは慌ててフォローを入れる。ほとんど反射的な言葉だった。
「ありがとう。さすがアリスね、頼りになるわ」
「あ……うん……いや、あんまり期待しないでね」
 きっとアリスの言葉を引き出すための計算通りの沈黙だろう、と当人も後から気づきつつも、悪い気はしないから困ったものである。
 アリス・マーガトロイドは、人に頼られると、弱い。



「それで、珍しく赤い料理ばっかりなんだな」
「そういうわけ」
 魔理沙が昼食をアリス宅でとること自体は珍しくはない。が、いかにも辛そうな料理がテーブルに並ぶのは、魔理沙にとっても初めて見る光景だった。
「脂っこいし、こればっかりだと体にもあんまりよくなさそうだな」
「……そうね」
 アリスの創作料理はバリエーション豊かではあったが、やはりラー油を使用している以上は、油が多くなることは避けられない。しかも辛味が強いため、どうしても味が単調にならざるを得ない。ラー油の消費というのは、やはり難題であった。
「魔法に使えないもんかな」
 辛い、辛いと言いつつ、魔理沙は美味しそうにアリスの昼食を食べる。そろそろ食べ終わるという頃に、魔理沙は言い出した。
 アリスは、少し目を丸くして魔理沙を見つめる。
「咲夜と同じこと言ってる」
「おお。さすがだな、私と同じ発想に至るとは、あいつも魔法使いとしての素質があるな」
「私にはなかった発想なんだけど」
「きのこが使えるんだから、ラー油が使えてもおかしくはないだろ」
「そう……そう……かしら……」
 きのこさえ使うことはないアリスではあったが、仮に使うとして、ラー油と同列に見ていいものだろうか、という疑問が拭えないのだった。
 頭を抱えていると、よし、と魔理沙は言った。
「試してみるか、いろいろ。どうせ余ってるなら遠慮なく使ってもいいだろうしな」
「うーん。どういう使い方になるの……?」
「そりゃ、いろいろだ。なんでも物は試しだぜ。たとえば……傷薬に使う薬草をラー油漬けにしてみるとか」
「……まずは自分で試してね?」
「お、おう。あ、発火剤に添加してみるのはありじゃないか。なんとなく効きそうな気がするだろ?」
「……まあ。なんとなく」
 そんな会話を繰り広げている間に、食事は終了する。
 辛いものばかりということで、お茶は温めだ。
「ああ。なるほど」
 いつもは魔理沙には緑茶なのだが、今日は断りなくミルクティだった。飲んでみて魔理沙は納得する。辛いもののあとは、このほうがいいのだと、よく理解できた。舌の痛みがはっきりと和らぐ感じがする。
「さすがアリスだな。こういう気遣いは、抜かりない。ごちそうさま。……ありがとうな」
「あ……う、うん、当たり前のことだから、うん」
 魔理沙の言葉に、アリスは慌てたように手を振って応える。頬はほんのりと朱に染まっている。
 アリス・マーガトロイドは、正面から褒められると、弱い。



「先生、お願いします」
「どーれ」
 ここは魔理沙の家、実験室。
 最初の台詞は魔理沙のもの、続く台詞はもう一人の魔法使い――聖白蓮のものである。
 アリスは少し離れたところから、実験を見守ることにした。


 ――その、少し前。
「変り種の魔法といえば、あいつだな、あいつ。魔界から来た」
「え? 私……じゃない、よね。……ああ、聖さん?」
「それだ。あいつの魔法は面白いぜ。いや、アリスの魔法も面白いんだが、白蓮のはもっと独創的でな。さすが本家魔界育ちという感じがするな、二人を見てると」
「……そう、かしら。私はかなり正統派なほうだと思うけど」
「アリスは魔法自体はそうかもな」
 先日、帰る前に魔理沙が語っていたことだった。
 新しい魔法の研究するならヒントになるぜ、と自信持って言っていた。
「あいつは、魚を使った魔法もいっぱい持ってるって言ってたからな。幻想郷じゃ新鮮な魚は川のものしか獲れないから使う機会がない、ってちょっと寂しそうだったけど」
「……魚の……魔法……?」
「魔界は何にもないが海の幸は豊富だったから簡単に手に入るらしくてな。それで、せっかくだから魔法に利用してみたらしい」
「魚の魔法」
「そんな不思議そうな顔で見られても、私もあんまり詳細は知らないからな。攻撃魔法との相性も悪くないらしいぞ、レーザーとか」
「魚レーザー」
「だから私にそんな顔を向けられても――」
「というか彼女僧侶なんじゃないの……」
「僧侶だって魔法に魚くらい使いますって言ってた」
「ちょっとなに言ってるかわかんない」


 というわけで、当の聖白蓮の登場である。
「私もラー油を使うのは初めてですね。ただ、使えると思いますよ、十分」
「……使えるんだ」
 鍋を覗き込みながら話す白蓮の話に、アリスはぽつりと返す。
 ええ、使えます。白蓮は今度は断言する。
「調味料を魔法に使うのは珍しくありませんからね。それぞれに個性が出て面白いですよ」
「聞いた覚えがないんだけど、私は」
「しょうゆが基本ですが、塩だともうちょっとあっさりした感じ、味噌だと温かくて濃厚な感じに仕上がりますね」
「魔法の話よね? 魔法の話で間違いないのよね?」
「ラー油は存在感が強いので気をつけて扱わないといけませんが、しょうゆにも味噌にも合いそうですね。今回は味噌で行きましょう。ピリ辛味噌、ですね。うふふ」
「魔法の実験してるのよね?」
 白蓮は手元に銀色の皿を揃えていく。皿には草や粉、骨といった魔法研究ではよく使われるものが入っている。手順を見ていると、やはり魔法の実験だとわかる。
「香草、ねぎ、生姜、それから鶏だ。これで間違いないな?」
 ……
 やはり魔法の実験だとわかる。
「ありがとうございます。これで、いけますね」
「よし、やるか」
「はい。と言っても、最初はこれをじっくり煮込むだけですけどね。焦らず、ゆっくりとやるのがコツです」
「火力は?」
「水がたっぷりなので、最初は強めで」
「了解だぜ」
「さて、これは丸一日煮込むことになりますので、触媒のほうの準備をしましょう」
「おう。小麦粉だな」
「はい。大変ですが、水と混ぜていっぱい捏ねましょう」
「ねえ魔法作ってるのよね?」


 というわけで、丸一日鶏の骨を中心とした魔法薬を煮込んで、味噌とラー油がベースの増強剤を作り、最後に小麦粉と水を混ぜ合わせて捏ねて棒状に切りそろえた触媒を茹で上げて、全てを混ぜて完成である。
「はい、できました! 追尾ミサイル強化用の丸薬です」
「なんで!?」
 アリスは全身と出せるだけの声をもってツッコんだ。

「おお? どうしてあの材料で追尾ミサイル強化になるんだ?」
「ラー油がポイントですね。あの辛さはミサイル弾との相性がいいはずです」
「いや……それ以前になんでその調理法……じゃない、調合法で、丸薬になるの……」

「うまくいったかどうかはまだ検証が必要ですが、発想は合ってると思います。ぜひとも結果をまたお伝えしていただければ」
「おう、すぐに試してくるぜ」
「……ふふ。ラー油は初めてでしたが、まだまだ面白い使い方はできそうですね。今度、魔界時代の仲間たちにも教えてあげましょう」
「えー……あなたと、同じような研究をしてた人が、魔界にも、いるんだ?」
「います。特にリーダー格だった<<スパイス・マスター>>鈴木は、私などではとても及ばない発想力で、創作魔法の世界を大きく広げていったものです」
「誰」
「創作魔法は、魔界でも私たちの地方だけの文化でしたからね。アリスさんがご存じないのは仕方がないかと思います。でも、きっと、彼はいずれ魔界に名を残す大魔法使いになりますよ」
「……」
 どうやら自分は魔界出身のクセに、魔界のことをまだまだわかっていないらしい。
 軽いめまいを覚えながら、アリスはしばらく帰らぬ故郷に思いを馳せるのだった。



 これにて無事解決かといえば、そんなこともなく。
 白蓮の独創的な魔法も、結局ラー油の消費量自体はあまり多くなく、さほど根本的な解決にはなっていないのだった。
「うーん……」
 アリスは、地下の一室、通話機の前で迷っていた。
 通話機は魔界に通じている。この部屋のみ、魔界と特殊な回線で接続しているのだ。故郷に万が一のことがあったとき、あるいはその逆のときのことを考えて準備された装置だ。魔界の内部、少なくともアリスがいた魔界の都市部では電話は普通に普及しているが、幻想郷には存在しない。そのため、魔法の力でこの通話機と魔界の回線の間を橋渡ししているのだ。
 白蓮の話を聞くにつれて、やはり魔界の知恵は借りてみるのがいいのだろうか、という気になっていた。アリスが知らなかっただけで、魔界には調味料を魔法に使う一派がいるのだ。その彼らに使ってもらうのであれば、合理的な解決方法だと言えよう。
 ……が。
「……めったに使わない回線を使う用事が、ラー油って。ラー油って……」
 特に定期連絡をしているわけでもないため、事実、片手で数えられるほどしか使用していない。向こうからしてみれば、かかってくれば、とても重要な用件だと思うだろう。
 しかしラー油である。
 無駄に気が重い。
 ……まあ、困りごとではある。放っておいても解決しそうにない。魔界に頼れば解決するのかという保障もないのだが、白蓮の様子を見る限り、数少ない希望ではあるのだ。
「……もしかすると、魔界はたまたまラー油が不足してて困ってる、なんてことも、あるかもしれないし」
 ラー油が不足するという状況が想像できないが、アリスは自分に言い聞かせるように呟いて、通話機を手に取った。

「アリス、久しぶりね! 元気してる? ちゃんと食べてるー? 魚が恋しくない? こっちはね、いまカツオが旬で美味しいのよ。帰ってきたらいっぱい食べられるわよ。そうそう、新茶はまだ残ってる? そろそろまた送ったほうがいいかしら? 山のほうのお茶も今年は出来がよくてね、そっちも試してみてもいいと思うわ。これがまた大豊作で余ってるくらいで。あ、野菜はどう? 足りないものはない? トマトは手に入りにくいんじゃない? 言ってくれればなんでも送るからね。アリス、みかんも好きよね。まだシーズンじゃないけど頑張れば冷凍物だって送れるから遠慮しないでね。それと――」
「あ、あのっ」
 繋がったとたんに、これである。喋る間もない。
 いつもこんな感じだとはいえ、今日はさらにマシンガンだった。久しぶりだったということもあるのだろう。
「あ、ごめんね、なにかお話があるのかな?」
「……うん。そんな、たいした話じゃないんだけど」
 あまり深刻に構えられるよりは、切り出しやすいとも言える。通話機の前で苦笑いを浮かべながら、アリスはここで一呼吸置いて、ストレートに切り出した。
「ラー油のいい使い道って、知らない?」
 アリスの言葉に対して、少しの間、声は戻ってこなかった。
 珍しい、と思い、言葉を補足すべきだろうかと考えているところで、ようやく返事が返ってきた。
「そっちでもラー油が流行ってるの?」
「え?」
「不思議ねー。こっちでも少し前からブームになってるのよ。創作魔法っていうのが雑誌で紹介されてね。そこで最新作として、今までにないラー油を使った魔法のレシピがあって」
 通話機の向こう側から聞こえてくる予想外すぎる言葉に、アリスは、ああ思考が飛ぶというのはこういうことなのか、と実感していた。
「……それって、もしかして鈴木さんとかいう」
「アリスも知ってるんだ。そう、鈴木シェフの」
「シェフって言った今?」
「ただ、ラー油が足りてないのよ。だから試したくても試せない人が多くて」
「足りてない? ……足りてないって? 言った? 本当?」
「うん。間の悪い話なんだけどね。鈴木シェフが量産試験のためにいっぱいラー油買い占めただけど、思ったほど使わないことがわかったからまとめて問屋さんに売っちゃったんだって。で、問屋さんがそのまま所在不明でどこかに消えちゃった、という展開みたい」
「……」
 さすが魔界の神、情報通だと言うべきか。むしろ、神の割にマスコミ程度なのはどうなのかと言うべきか。情報はほぼ伝聞系である。
 しかし今は細かい点などどうでもよかった。魔界では、ラー油が足りていない。それが一番重要な情報である。そんなことがありえたのである。
「……魔界怖い」
「え?」
「いえなんでも。いい情報が聞けたわ。あのね実は――」



「完璧な解決。さすがアリスね」
 咲夜はいつもどおりの冷静な声で言いながら、お茶を出した。
「……普通のお茶よね? これ」
「いいえ、高級茶葉ですわ」
「いやクオリティの話じゃなくてね」
「特急で煎れてきましたわ」
「速度の話でもなくてね」
 念のため匂いをかいでみる。上等な紅茶の香りだ。とはいえ、咲夜は食品魔改造のプロである。油断はできない。美味しければそれでいいという考え方もなくはないのだが。
 覚悟を決めて飲んでみる。……美味しかった。普通に。いや、普通以上に。
「結果はよかったけど、正直言って、偶然でしかないわ。たまたま、魔界でラー油魔法が流行ってて不足してただけ」
「やっぱり、魔界凄いということで」
「……もはや否定できない」
「でも言っておくけど、紅魔館も凄い」
「なんでいきなり張り合ってきた」
「ニンニクの匂いと辛い匂いに少し涙目になりながらも私の実験料理を止めなかったお嬢様凄い」
「それは自主的にやめてあげてねっ!?」
「『技術の進歩に、多少の犠牲は付き物だよ。構うことはないさ』――お嬢様凄い」
「やだちょっとかっこいい」
「涙目で」
「やだ絶対無理してる……」
 後でレミリアの頭でも撫でにいってあげようかと思ってしまう。
 間違いなく拒否されるだろうが。
「――ふう。ともあれ、これで解決ね。お疲れ様」
 偶然とはいえ、依頼を解決したことは事実である。仕事の後のお茶は美味しい。
 確かに高級茶葉なのだろう、いい香りだ。紅魔館ではお茶に外れはない。普通は。余計なことしなければ。
「もう一杯、注いでくるわね」
「いえ、もう結構よ。美味しいけどね。そろそろ図書館のほうに寄っていきたいし」
「もう一杯」
「なんでここで押してきた」
「せめて二杯」
「増やすな」
「実はお茶が余っていて」
「安くても必要以上に買うな! 頼むから!」
「お茶の魔法とか」
「あるかっ! …………うん、ある、かもしれないから、あとで聞いてみる」
 アリス・マーガトロイドは、成長する。





***

「メイド長ー。友達連れてきたんですけど、この子もここで働いていいですかー?」
「ん。採用。タダだし」
「わーい」
(妖精メイドがやたら多い理由……これか……!?)
posted by 村人。 at 17:51| Comment(2) | TrackBack(0) | SS

2012年07月29日

夜空に願いを

ものすっごく久しぶりの更新です!!!!!
すみません……


そして今更ながら7月7日、七夕に創想話ジェネに投稿したSSの再掲載です。
なにげに更新していない期間に絵の方はかなり描いてたりするのでそちらも後日まとめて上げます、はい。

↓以下本文です







「明日は、七夕なのよ。七夕知ってる?」
 図書館にやってきたアリスは、挨拶の後、すぐに本題に入った。パチュリーは読んでいた本の上に手を置いて、ふむ、と呟いた。
「七夕。そんな時期なのね、もう。懐かしいわ」
「……懐かしい?」
「ここに住み始める前は、七夕のお祭りを見ることもあったわね」
「つまり、ここではやってないんだ?」
「今のところ、ね。レミィはパーティ好きだから、そんなのでも口実にしてそのうちなにか始めるかもしれないけど――でも、夏はあんまり元気ないからね、だから今までなかったのかも」
「なるほど、お嬢様の機嫌一つってことね」
 アリスは椅子を引いて、パチュリーの隣に座る。
 ほぼ同時に、小悪魔がお茶をいれて運んできた。早さからすると、アリスが図書館に入る前、おそらく紅魔館に入ったというあたりから準備を始めていたのだろう。アリスは笑顔でありがとう、と応対する。
「魔界には七夕のお祭りはあったの?」
「うん。お祭りというか、イベントって感じなんだけどね。屋台出したり、花火大会したり、織姫と彦星の二人が商店街を歩いたり、そんな感じ」
「凄いわね。織姫ズは魔界で会ってるのね」
「ズって。いや、いや、もちろん、本人じゃなくて、コスプレだから。本人はたぶん天界とかで会ってるんじゃないかしら」
「織姫ズも、天から自分たちを肴にしてはしゃいでる民衆を見てどんな気持ちなんでしょうね」
「なんかその表現だと二人組の姫さまユニットみたいで間違ったイメージしちゃんだけど」
「パチュリーでーす」
「えっ……あ、アリスでーす」
「二人揃って――我ら<<七曜魔女連盟>>なり」
「そこ織姫ズじゃないんだ!?」

「で、織姫と彦星って、なにやらかした子なの?」
「やらかしたって。なんか、色んな言い伝えがあるみたいだけど、えーと確かね。織姫が、機織りが上手なお姫様で、彦星が牛飼いで、二人の仕事っぷりが認められて結婚したけど、結婚したら遊んでばっかりで仕事しなくなっちゃって、それで神様が怒って二人を別れさせたって話」
「別に悪いことしたわけじゃないのね。遊んで暮らせるだけの財力があるなら、別に好きにすればいいと思うんだけど」
「……いや、うん。二人が仕事しなくなっちゃったから困る人がいっぱいいたのよ」
「どうして頼りきりなの? 二人ともそんな代理がいない仕事には見えないけど」
「えーと……きっと、レベルが全然違ってたのよ。あまりに名手だったから他に同じ仕事してた人が廃業しちゃってて、すっかり独占状態になってたのよ、きっと」
「伝説に残るほどの牛飼い名人ってどんな仕事するのかしらね。気になるわ」
「……何百頭くらいいたのを、一人で飼ってたとかじゃないかな」
「なるほど。それが野放しとなると大惨事ね。つまり七夕伝説というのは、能力を持つからには責任も発生する、という教訓を伝えるための寓話だったのね」
「そう……なのかな……」
「例えるなら、明日急に咲夜がうちからいなくなるような状態ね。確かにそれは、世界の崩壊に等しいわ」
「そこまで!? いや、咲夜の仕事っぷりは知ってるけど、でも咲夜が来たのってつい最近でしょうに」
「――人は有史以前、火も文字も持たない時代から生きてきたわ。だからって、今の人間がその時代に戻って生きられるわけじゃない。そういうことよ」
「咲夜一人で人類一万年分のスケールなんだ……」


「いや七夕について論じに来たわけじゃなくてね」
「ん?」
 お茶を飲み干して落ち着いたところで、方向転換。
 おかわりいかがですか、とタイミングよくやってくる小悪魔に一礼して辞退。
「もし、体調良かったら、星見に行かない? って誘いに来たの」
「ああ、そうだったの。体調は見ての通りよ」
「いやいつも通りでよくわかんないんだけど……」
「そういうこと、いつも通り。240キロワットくらいよ」
「ますますわかんないんだけど! 確かになんか元気さの単位っぽいけどっ!」
「こうやってドタバタするアリスを眺めて幸せを感じる余裕がある程度には元気ってことよ」
「ああそうねいつも通りねなるほどねっ」
 少し悔しそうに目を閉じつつも、まあ、元気ならよかったわ、とすぐに気を取り直す。切り替えの早さが紅魔館で会話をするためのコツである。
「でも、わざわざ見に行かなくても、紅魔館にも星が見える場所はいくらでもあるわ」
「あ、うん、そうじゃないの。魔理沙がね、天体望遠鏡出してきて張り切ってるから。今年こそはベガとアルタイルが出会う瞬間を目撃してやるぜって。で、せっかくだしみんなで一緒に空でも眺めつつ、願い事でもしてみようかな、という感じで」
「そういうことね。天体望遠鏡……そんな大物、盗むのも大変だったでしょうに」
「いやいや。望遠鏡は、魔理沙が小さい頃からずっと持ってるものなんだって。家出をしたときに真っ先に選んで持ってきたとか」
「……ああ。あの子、星、好きよね」
「うん。よかったら、天の川のこととか、いろんなこと質問してみて。もう、目を輝かせていっぱい語ってくれるわよ」
 アリスは軽く俯いて微笑んだ。
 ほんの少し苦笑いが混じっているのを見つけて、パチュリーも、くす、と小さく笑った。
「あの子は、一人なの? また巫女とかいろんな妖怪とか集まって、結局宴会になってたりしてない?」
「大丈夫だと思う。魔理沙は、星の観察のときはいつも静かにするのが好きみたいだから。……話すのは、いっぱい話すんだけど、その。賑やかにはしないっていうか」
「なるほど。アリスが言うのなら、間違いないわね」
「……だと、いいんだけど」
「アリスが魔理沙のことを語るのに、間違えるなんてことはないでしょ。逆も、ね」
「う……うーん」
 パチュリーは静かに本を閉じる。これが、回答だった。
 背後についていた小悪魔に、出かけてくるわ、と一言伝える。
「行きましょ。久しぶりに月の光も浴びたいしね」
「うん、ありがとうね」
「いいわ。外で話をするのも、新鮮でしょう。アリスには、私のことももっと知ってもらわないといけないし」
「……う……うん」
「私は、あの子ではとても教えられないような乙女の秘密も全てさらけ出す覚悟ができてるわよ」
「なんの話なの!? あえて外に出るときに!?」
「やっぱり、今のほうがいいかしら」
「それは、もちろん――いやいやいやいや、違うからそういう罠選択肢なしで!」



「お、来てくれたか。体のほうは大丈夫か?」
「大丈夫よ。……ありがと」
「おう。ま、夜なら割と外も過ごしやすいだろ?」
「そうね」
 魔法の森の少し外れ、山を登ったところに、木が少なく見晴らしが良い場所がある。人間はまず立ち寄れず、妖怪もあまり住んでいないという、静かに天体観測を行うには絶好の場所だった。
 魔理沙は立派な天体望遠鏡を構えていた。アリスとパチュリーがやってきた時にも望遠鏡を覗きこんでいたが、二人が着地する前に、気配を感じたのか目をレンズから外して、声をかけてきていた。

「……なるほど。ここまで見えるものなのね」
「だろーだろー、すごいだろー」
 レンズを覗きこんで、微かながら感嘆の声を漏らすパチュリー。天体望遠鏡を覗いたことがない、というパチュリーに魔理沙がさっそく薦めたのだ。難しい調整は終わっている。覗きこむだけではるか遠くの星がはっきりと大きく見える。
「ちょっと難しいけど」
 くい、と軽く本体を動かして、見える場所を調整する。軽く動かしただけなのに、見える範囲はまったく別物にまで変わる。微調整は容易ではない。
「ああ、近くに見たいものがあるなら、手で本体動かすんじゃなくて、そこのツマミを回すといい」
「ここ?」
「それ、それだ」
「ふんふん」
 魔理沙が教えて、それをパチュリーが素直に吸収していく。
 めったに見られない貴重な光景が微笑ましく、アリスは少し離れた場所からそれを眺めていた。
「日付が変わるまでもうちょっとあるから、存分に遊んでくれ」
「うん。たぶんあと三分くらいで飽きるけど」
「……お、おう」

 ほぼ三分後、望遠鏡は再び魔理沙の手に戻った。
「じゃ、天の川にしっかり照準をあわせて、と」
 活き活きと作業をする魔理沙の近く、丁寧にも準備されていた折りたたみ椅子にパチュリーとアリスは腰掛ける。
「あとは待つだけだ。せっかくだし、星の話でもしないか? なんでも質問に答えるぜ」
「質問」
「お、いいな、積極的な生徒は好感度大だ」
 パチュリーの挙手に、魔理沙が嬉しそうに指差し指名する。
「ここから100万パーセク以内の恒星のうちニッケルの存在量が一番多い星は?」
「すまんもうちょっと中級者向けくらいまでの質問で頼む」
「んー。じゃあ、水素のスペクトル系列で、可視光の中で一番波長が長いのはなに?」
「お前絶対自分の得意分野でテストしてるだけだろ。まあそいつは簡単だけどな。バルマー系列アルファ、656ナノメートルだ。星の観察には基本になる数字だから、」
「次、冬の大三角形で――」
「答えてるんだからせめて聞いてるフリくらいしてくれよ! あともう絶対七夕に絡めてくる気ないだろ!」
「わかったわ。聞いてるフリするから」
「いや宣言されてもさ」

 生徒としては極めてやりにくい相手に授業をしている間に、時間は過ぎていく。魔理沙が疲れた顔をしているのも、やむなしだろう。が、なんだかんだで星の話をたくさんできたためか、満足感はそれなりにあるようだった。
「そろそろ日付が変わるな」
 手元の時計を魔法の光で照らしつつ確認、魔理沙が宣言する。
「よし、それじゃ歴史の目撃者になってみようか」

「でも、伝説はあくまで伝説でしょ? まさか、本当に七夕になるとなにかが起きるなんてことはないんじゃないの?」
「おう。あえて今このタイミングまで引っ張ってきて言うか」
「えっ、あ……ごめんなさい」
 アリスは少し慌てて、首を横に振る。
「とりあえず一緒に星を観測してお話するための口実みたいなものだって、思ってたから……」
「いや、半分そうだけどな」
「そうなんだ」
「でも、わからないだろ。織姫も彦星もさ、二人が会うこのときを地上からみんな祝福してるって知ってるだろうしさ。だったら、会えたよって合図っていうかアピールっていうか、なんかやるかもしれないだろ」
「……ロマンチックなのか現実的なのかよくわからない意見ね」
 パチュリーの横槍に対しては。
「それを両立させるのが、魔法使いってやつだろ」
 自信満々に、魔理沙は答えた。
 不意を突かれて、パチュリーもアリスも、軽く驚き、言葉を失った。
「……い、いや、うん。今日のこれにはあんまり、魔法関係ないだろうけどさ」
 少し恥ずかしそうな魔理沙の声。
 もう望遠鏡を覗きこんでいるため、その表情は伺いにくい。
 パチュリーとアリスは、二人、同時に笑った。
「……なんだよっ」
「うふふ。別に」
「別に」
「むー」

「あっ」
 望遠鏡を覗いていた魔理沙が、声を上げた。
「見えたぞ」
「え?」
「ああ、天の川が、光ってる。これ、あれだ。橋だ、間違いない!」
「え? ――ここから見てるぶんには、よくわからないんだけど」
「同じく」
「まあ、見てみろって。これは大発見だぞ。さあ、早く!」
 魔理沙がパチュリーを手招きする。
 パチュリーは少し迷った様子を見せるものの、魔理沙の様子を見て、好奇心が上回った結果、腰を上げる。さあさあ、と魔理沙は手を引っ張って望遠鏡へと誘う。
「そこを覗きこむ感じだ」
「わかってるって」
 パチュリーがレンズを覗きこむ。少し前に練習していただけあって、スムーズな動作だ。レンズはしっかりと天の川、そして二つの明るい星を捉えていた。
「……普通なんだけど」
「いや、時々光るんだって。よく見てろ」
「んー……」
 魔理沙はパチュリーの横顔を、アリスは空をじっと見つめる。
 誰もが黙ったまま、数秒の静寂。
「あっ」
「お? 見たか? 見えたか?」
「見えたわ」
「すごいだろ? な?」
「そうね、凄いわね。はい、アリス、どうぞ」
「え? あ、うん……じゃ、私も」
 今も特になにも観測できなかったアリスは、パチュリーの勧めのままに交代する。
「なんだ、冷めた反応だな。感動はないのか?」
「そうかしら。歴史的発見の割には、お互い様じゃなくて?」
「……あーいや」
「あ、光った。……綺麗」
「だろ? だろ?」
「すごいわね、どういう仕組み?」
「えっ」
「そうね。微かに魔法の気配は感じるんだけど、魔理沙が今魔法を使った様子はないし。なかなか凄いと思うわ」
「……いや……いやまあ」
 あっさりと二人に詰め寄られて、魔理沙は乾いた笑いを顔に張り付かせる。
 しばらく口を半開きにしたまま、なにか言葉を探していたようだが、やがて観念したのか、がっくりと肩を落とした。
「せめて、少しくらいノってくれてもよかったのになー……」
「あら、凄いと思ったわよ、違和感あんまりなかったし」
「そうね。よくできていたわ」
「私が求めていたのは、そういう感動じゃなくてだな」
「まさか、魔女相手に魔法を使ってバレないと思っていたわけでもあるまいに」
「……うまくやったつもりだったんだけどな」
「うまくできてると思うわよ、ねえ、魔理沙、どうやったの、あれ? 気になるわ」
「そうね。それを聞かせてもらわないことには終わらないわね」
「お前らな……」
 ロマンチックと現実主義。
 どうやらその比率は魔法使いによってもいろいろと違うようだ。
 そんなことを思いながら魔理沙は苦笑いを浮かべつつ、天体望遠鏡の仕組みの解説とともに、中に仕込んだ発光フィルムと動作原理について解説するのだった。星の話よりもよほど真剣に聞く二人に対して言いたいこともあったが、ともあれ楽しんでもらえたならそれでいい。と、魔理沙は呆れつつも思うのだった。

「楽しかったわ。星の観察もなかなかいいものね」
「お前、あんまり星みてなかっただろ……」
「いいじゃない。星は逃げはしないわ。でもこの時間は貴重なものだったわけだし」
「そうそう。星を見ながら三人で話をしたってところに、意義があるのよ」
 パチュリーに続いて、アリスも嬉しそうに言った。
 そっか、と魔理沙は素直に頷く。
「でも次は、もうちょっと雰囲気のある会話もしてみたいもんだぜ」
「魔理沙はロマンチストね」
「そうね」
「……悪いか」
「ううん。でも、魔理沙、なんだかんだ言って、こんな準備してたってことは、自分でも天の川に本当になにかが起きるって信じてなかったってことじゃない」
「……あれはあれで、本音なんだぜ。毎年、なんにもないんだけどさ。だから、保険だな、保険。せっかく来てもらったのに、なにもなしじゃ寂しいだろ」
「あら、優しい魔理沙」
「ふふ、ありがとうね」
「……」
 魔理沙はふい、と顔を逸らす。
 帽子を深く被る。暗くて顔は見えにくいというのに、その仕草こそが魔理沙の表情をなによりよく表していた。
「それより願い事だ、願い事。せっかくだし最後に願い事してから帰るといいぜ。一応、そこまでが七夕のイベントってことで」
「短冊準備してるの?」
「いや、略式でいいだろ。星を眺めながらさ、心のなかで――」
「アリスがメイドになりますように」
「心のなかで!」
「いや心のなかで願われても困るんだけど私」
「……ったく」
 笑いながら、魔理沙は空を見上げる。
 ベガとアルタイル、そして天の川。もちろん、周囲には他にも無数の星がある。魔理沙は星空を見上げて、願い事を考える。
 たとえば――
「あっ」
「あ……」
「えっ?」
 そのとき、三人同時に、声を上げた。
 パチュリーとアリスは、魔理沙のほうを見る。魔理沙は、二人のほうを見て、首をゆっくり横に振る。
「……今のは、私じゃない。今、流れ星、見えたよな?」
「見えた」
「うん」
「流れ星、天の川を渡ってたよな?」
「そうね」
「……ふふ。私たち、本当に歴史の目撃者になっちゃった?」
「そうだな、これは、見てしまったな。あっ、しまった、願い事、するの忘れてたぜ」
「七夕と流れ星で二倍効果があったかもしれないのにね」
 アリスが笑いながら言う。
「私は間に合ったけど」
 パチュリーは落ち着いた声で言った。
「まじで」
 驚く魔理沙に、こく、と首を縦に振る。
「魔女は機会を逃さないものよ。二倍効果なら完璧でしょう。これでメイドアリスを二人確保できたわ」
「私一人しかいないからね!?」
「じゃあ、二生分」
「もう私生まれ変わり後の職業まで決められちゃうんだ……」
「――冗談よ。そんなことは願わなくても、その気になればいつでも実現出来るだけの手段は準備してるから、いちいち願ったりしないわよ」
「そ、そう。よかっ……よくない!? 割と聞き捨てならない言葉が!?」
「じゃあ、なにを願ったんだよ」
「……さあ、なにかしらね。案外、魔理沙と同じかもね?」
「え、じゃあ、来年も三人でこうして遊ぼうって――あ、いや……」
 しまった、と口を押さえる魔理沙だったが、当然、もう手遅れである。
 パチュリーの視線。
 アリスの視線。
 両方が、魔理沙にしっかりと向いていた。
 二人、申し合わせていたかのように、同時に笑った。
「叶うわね」
「間違いないわね」
 星と月の微かな灯りの下、魔理沙はしゃがみこみ頭を抱えた。
 こんな魔理沙を見ることができるなら、年に一回と言わず、もっと来てもいいかもしれない。魔女、パチュリー・ノーレッジの七夕の日記は、その一文で締めくくられた。
posted by 村人。 at 19:40| Comment(0) | TrackBack(0) | SS

2012年05月29日

自由に味付けして。

「あれ、咲夜。珍しいじゃない」
 声をかけられたのは、賑やかな市場を歩いていたときだった。
 人の数は多く、声も常に飛び交っている中ではあったが、咲夜は迷わず声の発生源のほうに振り向いた。
「メイド服だし背が高いし、もしかしてって思ったんだけど。やっぱり目立つわね、あなた」
 などと、綺麗な金髪を輝かせながら、アリスは言った。目立つという意味では明らかにお互い様だったが、あえて指摘するつもりもない。
「どうも」
「お買い物? 相変わらずメイド服ってことは、仕事?」
「ええ」
「珍しいわね。いつもはちっちゃいメイドたちの仕事よね? ちょくちょく見かけるし」
「高級品や大口購入のときは私が出るのが基本よ。十分に交渉が必要だから。でも、今日は、そうね、特別。パチュリー様が、人間はもっと定期的に日の光を浴びるべきだってお嬢様に進言してくださったようで」
「ああ……あなた、言われなかったらずっと中で仕事してそうよね。今の言葉はパチュリーにそのまま返したくもなるけど……」
 少し複雑な表情を見せるアリス。咲夜の感覚では、魔法使いというものは日陰に閉じこもっている状態が普通であって、このアリスや魔理沙のほうが特殊なのではないかと思うものだが、これも別に指摘する必要はないと思い、口には出さない。
 ここは野菜や果物を中心とした食料品市場である。日常的に消費する食材の買い入れは、事実、通常は妖精メイドが担当している仕事だ。咲夜自らが食材を調達するとなると、普通には手に入らないものが必要なときだった。それはたとえば高級食材であったり、あるいは――普通の人間は食材と認識していないもの、を、調達するときである。
 が、今日に限っては、ごく日常的な買い物だ。逆に慣れていない特殊ケースである。
「でも、一人なの? 大丈夫? あそこっていっぱい買うんじゃないの?」
「妖精はなにも食べる必要ないから、それほど必要ないのよ」
「……あ。そういえばメイドはあなた以外妖精だったわね。なんか、忘れちゃうわ。妖精らしくない、なんというか、一体感、連帯感を感じるから」
「わざわざ働こうなんて考えてる時点で妖精の中では変わり者が集まってるのよ。ほとんど遊んでるけど」
「……大変よね、あなたも」
「紅魔館では働き者で色々とできる器用なメイドをいつでも募集しておりますわ」
「あ、う、うん。いい戦力になる子が見つかるといいわね」
「紅魔館では働き者で炊事洗濯裁縫人形作り人形劇なんでもできる器用な金髪メイドをいつでも募集しておりますわ」
「かなり限定してきたっ!?」
 アリスが少し慌てたところで、咲夜はほんの少しだけ、微笑む。
「あなたが欲しいのは本当よ、アリス。魔法使いとして、人形遣いとして、自由に生きているあなたが輝いているのは確かだから、強引な勧誘はしないけどね。気が向いたらいつでも来て頂戴」
「え……あ、う……ま、まあ、私だって、嫌だってわけじゃ、ないから。ただ、やりたいこともあるから、できないっていうか」
 咲夜は微笑をたたえたまま、アリスの言葉をゆったりと聞く。
 アリスは少し顔を赤くしつつますます慌てて、えーっとと言葉を探しつつ喋る。が、途中ではっと真顔になって、今度はゆっくりと、ため息をついた。
「う……危ない、危ない。あなたのペースに巻き込まれるところだったわ」
 視線を咲夜から少し外しながら、もう一度深く息を吐く。
 しばらく間を置いてから、上目遣い気味に咲夜の顔を覗き込む。
「咲夜、絶対、自分の容姿とか表情とかがどんな効果を生むか、計算してやってるでしょ」
「さあ? どういうことだか、よくわかりませんわ」
「……もう。悔しいわね、そうやってトボけるんですら、なんかサマになっちゃうんだから」
「褒め言葉?」
「ええそうよ! にくったらしいわねもうっ! なにやっても無駄にかっこいいのよあなたは! ……まったく、危うく口説かれちゃうところだったわ」
「あら、ありがとう。でも、アリス。さっきの言葉は本気よ?」
「……! だ、だから、そういうの、やめてっ」
「はいはい」
 くす、と咲夜は笑った。今度は先ほどと異なり、子供っぽさも感じさせるような笑い方。
 アリスはもう一度、深く、ため息をついた。
「まったく。どうせ、パチュリーに頼まれてるんでしょ、勧誘しておいてとか」
 小さく吐き捨てた言葉に、咲夜はほんの少し目を丸くして、ん、と首を傾げた。
 ここで、一秒ほどの、間を置いて。
 もう一度、計算されたような微笑みを浮かべる。
「それは、私自身の意思で誘ってほしかった、という言葉として受け取っていいのかしら」
「えっ……あ、いや、そういう、そんな話じゃ」
「安心して。もちろん、私自身の思いで、あなたが欲しいの」
「うっ……うーーーーーっ! だからっ! それ、やめてっ! 流されそうになる自分が怖いからっ!」
 耐え切れず、またアリスは、今度は上半身ごとひねるほどはっきりと、咲夜の顔から視線を外し、顔を手で覆った。赤く染まった頬や、どうしても緩んでしまう表情は隠しきれていない。
 ご意見、承りましたわ。などと落ち着いて言いながら、咲夜はその後はただ黙って、アリスの調子が戻るのを、じっと見つめながら、待った。

「でも、さすがね、アリス。子供たちの前で人形劇を披露しているだけはあるわ」
「え? なに、が?」
「これだけ注目を浴びてること自体は、意外に平気なのね、と思って」
 咲夜の言葉を聞いて初めて気づいたように、アリスは、顔を軽く、そして目を左右に振って、周囲の様子を眺め確認した。
 長身で美人なメイドと、金髪の少女という組み合わせ。そして、なにやら妖しげな会話。必然的に人々の好奇心を煽っていた。割と遠慮がちにちらちらと見ている人もいれば、堂々と観戦モードに入っている人もいた。
「……」
 ようやく落ち着き始めていたアリスだったが、また顔を下に向けて、ついに両手で顔を覆うのだった。


「おう、アリスちゃん、お取り込み中だったみたいだけど、もう話は終わったかい?」
「……お騒がせして、ごめんなさい」
「いやいや! だーれも迷惑だなんて思っちゃいないさ。みんな面白そうなことが大好きだからねえ」
 アリスは、すぐ近くの出店の主人と思われる男に話しかけられていた。
 とりあえず流れで、咲夜もアリスの後ろにそのままつく。
「今日はトマトが、いいのが入ったよ! 金はいらねえ、持ってってくれ」
「え、いえ、そういうわけには」
「いいって、いいって。いつもひいきにしてもらってるからね。あの、注目のアリスちゃんひいきの店ってだけで宣伝効果は抜群だからね!」
「えっ私いつそんな注目を集めたんです?」
「さっきとかだな」
「……あうう」
「ひひ、実際、本当に世話になってるんだよ。持ってってくれよ! そんかわり今後ともヨロシク、ってことで」
「うーん。ありがとうございます。では、せっかくなので」
「後ろのメイドさんも、ほら、どうぞ。美味しいよ」
「あら。私もよろしいので?」
「アリスちゃんの友達だろう? 是非、試してってくれよ。うちは質のいいものしか扱わないからね、絶対気に入ってくれるはずさ」
「確かに、いい色してますわ。それでは、四ついただけるかしら? 値段は三つ分でいいのかしら」
「ん、四つかい。ああ、そうか、メイドさんだからね、大きな家なんだろうねえ。いいよ、じゃ、全部持ってけ、ってわけにはいかないけど、半額で」
「ありがとうございます」
「いやいや、友情価格だよ、うん。アリスちゃんの友達ならこの店の友達だ」
「お世話になりますわ」


「アリスの人気のおかげで役得だわ」
「う……うーん。別に、人気とかじゃないと思うんだけど。あの店は実際よく使ってるしね。時々おまけしてくれるし、いい店だと思うわ」
 大きなカゴにトマトを四つ。まずは幸先の良いスタートである。
「友情価格って、今後も適用されるのかしら」
「……いや、あの人も精一杯だと思うから、容赦してあげてね、できるかぎり。あなたが本気出したら大変なことになりそうだし。全品八割引くらいは勝ち取りそうだわ」
「そうね。アリスの評判を落としたら大変だから、控えめにしておくわ」
「あ、さっきの部分は特に否定もしないんだ……」
「――はーい、アリスちゃん、いらっしゃーい! 今日はまた一段と可愛いところを見せてくれたわねー、ふふ」
 先程の店からまだ数歩歩いた程度の場所で、今度は反対側の並びにある店から、声をかけられた。
 今度はそこそこ若く見える女性の店主である。
「どうも、ええと……できればさっきのことは気にしないでいただけると」
「いいーや、貴重なところを見せてもらったからね、しっかり覚えちゃうわよー」
 ニヤニヤと笑ったあと、店主は今度は軽く口をとがらせた。
「でも、ひどいじゃない。あんな奴のところで野菜買っちゃうなんてー。アリスちゃんはあたしの味方だと思ってたのに……裏切ったのねっ!」
「……おい、聞こえてるからな、そこの」
「聞こえるように言ってるんですぅー」
「ああそうかい。営業妨害で訴えてやろうか、ああ?」
「やだー、怖いわー。アリスちゃん気をつけてねー、あのおっさんアリスちゃんを見る目あやしいわよー」
「おめーはそうやって人の悪口しか言えないから売り物も腐ってばっかりなんじゃねーのかよー」
「あ、あの、えっと」
 唐突に始まった、店主同士の野次り合いに、アリスは苦笑いを浮かべながら、とりあえず手で仲裁の仕草を見せる。
 近くの店は近くの店で、おお、もっとやれとか、また始まったよとかそんなことを談笑の雰囲気で言うばかりで、誰も本気で止める気などない。この光景を初めて眺める咲夜でも、これがごく日常的なやりとりであって、特に事件ではないということはすぐにわかった。
「それにしても、綺麗どころには綺麗な子が集まるのかしらねー。これまたすっごい美人を連れてるじゃない、今日は。最初はアリスちゃんのメイドさんかと思ったけど、そうじゃないみたいね」
「ありがとうございます。今後は何度かお世話になると思いますわ」
 店主の言葉に、咲夜はすかさず頭を下げて礼を言う。
 頭を下げているのに、決して卑屈や謙遜ではなく自信を感じさせるような礼、であるにもかかわらず、それがまた好印象を生むほど自然な仕草。
 はぁ、と店主がため息をつくほどである。
「こんな綺麗な外人さん二人が客に来る日が来るなんて、想像もしてなかったわー。人生、色々あるものね」
 二人は呼び止められただけであり、必ずしも客ではない。
 が、二人ともその点については特に気にしていない。アリスは、ちら、と咲夜の顔を伺ったが、少し口を開きかけて、やめていた。おそらく「外人さん」という点についてどう反応するか気にしたのだろう、と咲夜は読んでいたが、聞かれないのならばなにも言う必要はない、と知らぬ顔である。
「そうかそうか、これからも来てくれるっていうなら、うちもサービスしないとねー。運がいいよ二人とも、ついさっき新鮮な卵が入ったばかりなの。貴重品だから普段は結構なお値段するんだけど、今日は……これくらいで、おまけしちゃうよ」
 店主は指を二本立てる。今度は咲夜がアリスの様子を伺う。アリスは、いつもより確かに安い、と視線に答えた。
「あたしは優しいから、裏切りの件は許しちゃう。でもアリスちゃんもメイドさんも、あっちよりあたしの店をもっと贔屓にしてね! もっとサービスしちゃうから」
 アリスは曖昧な笑みを浮かべてそれには答えず、卵を六個買う。咲夜もそれに続いて十個。一応手にとって簡単に出来る範囲で質の良さを確認してから。
「性格の悪さが売り物に移ってなけりゃいいんだけどなあ」
「あーらとんでもない言いがかり。相変わらず非科学的ですわー」
「あ、あの、それじゃ、失礼しますね。ありがとうございます」
 また言い争いが始まりそうな雰囲気を感じて、アリスは颯爽と撤退する。咲夜も小さく瀟洒に頭を下げてから、後に続いた。


「やっぱり人気者じゃないの」
「うー……まあ、金髪が珍しいのよ、きっと」
「それだけかしらね。でも、おかげでいい買い物ができたわ。ありがとうね」
「うん。あなたの役に立てたのなら、嬉しいわ」
 咲夜は、じっと、アリスの目を見つめる。
 アリスは、五、六秒ほど耐えたものの、やはり耐え切れず、少し視線を外す。
「……なによ」
「アリスの場合は、計算じゃなくて天然で言うのが魅力的よ」
「……ううう、なによ、じゃあもう言わないっ」
「あら、魅力的だって言ってるのに。きっとそういうのもメイドとしてぴったりの素質よ」
「あんまり関係ないと思うけどっ!」
 そうかしらね。
 わざと少し真面目ぶった声で言って、咲夜はアリスの視界の端で微笑みかけた。アリスは聞こえないふりをして、暗くなる前に帰るから、と言った。



***



 ことり。
 差し出された皿の一つを見て、パチュリーは首を傾げた。
「今日は随分とシンプルな料理ね。なにかしら、これは」
 広い食卓につくのは、レミリアとパチュリーの二人だけ。二人がちゃんと揃うこと自体も、それほど日常的でもなく、レミリアだけになる日も多い。
 料理を運んだ咲夜は、丁寧に一礼してから、答える。
「友情と裏切りの炒めものでございます」
「本当になんなの!?」
「ふ――さすが咲夜ね、一見相性の悪い二つをあえて合わせて味わいを深くするなんて。友情は裏切りの中にあってなお光る――そういうことね」
「いやなに言ってるのあんたも」
「お褒めに預かり光栄です、お嬢様」
「赤い裏切りの酸味に浮かぶ、微かに甘い友情か。咲夜の名付けは、上手いな」
「お嬢様、赤いほうが友情でございます」
「ああ。そうだろうね、知っていたよ」
「さすがです、お嬢様」
「いや、そういうのいいんだけど、結局なんなのよこれ」
「ですから、友情と裏切りの炒めもの 〜アリスの恥じらいに乗せて〜 でございます」
「なんか増えた!? え、なに、アリスがなんなの?」
「ああ、言われてみればあの魔法使いの香りがするよ」
「いやあんたも適当なことばっかり言うなほんと」
 適当なやり取りを聞きながら、咲夜はふわりと微笑んだ。
「素材がよければ、シンプルに仕上げるのが一番ということですわ」
 さあ、どうぞ。お召し上がりください。
posted by 村人。 at 20:24| Comment(0) | TrackBack(0) | SS

2012年04月15日

ももせな。アフター 手を繋いで、一歩

長らく更新なくてすみませんでした!
5月5日のコミティア100に参加いたします。そこで「ももせな。」の続編短編を出します!

そして、コミティアには来られない方が多いとおもいますので、今回は全文公開いたします。
というか、すでに公開しております!
pixivで公開しておりますので、こちらを御覧くださいませ。
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=967347

pixiv入れないようという方は、PDF版を御覧ください。
表紙:http://murabito.sakura.ne.jp/scm/SS/2012Comitia_hyosi_sample.jpg
本文:http://murabito.sakura.ne.jp/scm/SS/t100_honbun.pdf

どちらも、コミティアで発行する本とまったく同じ内容です。
楽しんでいただけましたら幸いです!
posted by 村人。 at 16:42| Comment(0) | TrackBack(0) | SS

2012年02月19日

「パチュリー様、魔界に行きたいのですがちょっとゲート開いていただけませんか」

「パチュリー様、魔界に行きたいのですがちょっとゲート開いていただけませんか」
「えっなにそれ軽い……」

 十六夜咲夜は、唐突でないことのほうが珍しい。
 これは、全世界からランダムに紅魔館のメイド100人をサンプリングしてアンケートを取った結果、98人がそう答えたという結果からも明らかである。なお、残りの2人のうち1人は「いつでも咲夜さんを受け入れる準備ができているから例え熟睡中に目薬をさされても唐突とは思わない」と名言を残している。
 ともあれ、訓練された妖精メイドたちほどには訓練されていないパチュリーは、いきなり図書館に現れて先の発言をした咲夜に、呆気に取られずにはいられないのであった。

「魔界に行って、どうするの? あんまりどうでもいい理由だと勘弁してほしいんだけど」
「魚を買ってこようかと」
「漠然と想像していたよりはるかにどうでもいい理由だった!?」
 珍しく叫んでしまうほどの衝撃を受ける、パチュリー・ノーレッジ、魔女。
 対して、瀟洒なメイドはいつも冷静である。
「そうはおっしゃいますが、パチュリー様。魚を入手するには結局ゲートを利用した魔界からの直輸入がもっとも手軽なのです」
「そうかもしれないけど。そうかもしれないけどね?」
「ではご理解いただけたということで、よろしくお願いいたします」
「してないからね?」
 パチュリーは頭を抱える。
 会話の開始1分も経たないうちにここまで困惑させてくれる話し相手など、そうそういない。と、パチュリーは思うのだが、もしかすると自分が世間知らずなだけかもしれない、と不安にもなるのだった。
「だいたい、なんで私なの。魔界ならレミィのほうが専門家でしょ。まあ、レミィにそんなお願いしても相手にされないでしょうけど」
「はい。まずお嬢様にお願いしてみたのですが」
「したの!?」
「残念ながら、お嬢様の接続先は内陸部だから魚を買うには使えない、とのことでした」
「えっなんですごく真面目に対応してるの……」
「ちなみにゲートは<<門>>と書いてゲートと読むそうです」
「それは聞いてない」
「故郷はお茶が美味しいところだそうです」
「それも聞いてない」
 おそらく二人とも真顔のままで交わされたであろう会話を想像して、パチュリーは頭が痛くなる。
「ともかく、魔界へのゲートを開くのだってリスクを伴うのよ。コストもかさむし、そんな理由で開くことなんてできないわ」
「そうですか」
「……まあ、悪魔なら、里帰りは自由にできるからね。私じゃなくて、あの子ならもうちょっと気軽かもしれないけど」
「ありがとうございます。頼んでみます」
「いや今のは許可という意味じゃ――いや……うん、いいわ別に、好きにして」


「というわけでメイド長を魔界に案内してきます。1日ほど空けますが、問題ありませんか?」
 小悪魔は言いながら、丁寧な文字で書かれた文書を差し出す。
 渡魔願い(注:魔界に行くことである)と題された書類には、その理由と期間、緊急連絡手段などが書かれていた。ちなみに、紅魔館にも図書館にもこのような律儀な書面を作る習慣などない。魔界のビジネスではとにかく書面を残すことが重要でしたから、という小悪魔の流儀だった。
「ほんとに行くんだ……いや、別に図書館はどうせ暇だし問題はないんだけど、むしろ、咲夜が1日いないほうが各地に影響大きいんじゃないかしら」
「料理は作りおきしておきました。掃除くらいなら妖精メイドでも場所によってはたまに綺麗になることもあります」
「……うん。1日くらい掃除しなくても、別にたいした影響はないでしょ。いいんじゃない」
 いったい妖精メイドとはなんのために存在しているのかよくわからない、とパチュリーは思っているのだが、概ね同意してくれる相手は小悪魔くらいのものである。レミリア曰く、賑やかでいいじゃない、とのことだった。託児所かここは。
「ところでパチュリー様、お土産はなにがいいでしょうか」
「だからお土産とかそんな軽い……いや……うん、魚を買いに行くなんて言ってる時点で今更よね……。まあ、そうね。期待はしていないけど、ここでは見ないような魔導書でもあったら買ってきてちょうだい」
 パチュリーの言葉には、小悪魔がすぐさま反応した。
 すまなそうに表情を沈める。
「申し訳ございませんパチュリー様、書物の外界への輸出は1つ1つ申請して許可を得ないといけないと、商取引法第二十七条の二第三項および魔界西部の輸出入に関する条例で定められていまして、申請のための手続きを取るとなると許可が下りるまで数日」
「あ、うんもういいわなんかいろんな意味でめんどくさくなってきたから。なにもいらないからいってらっしゃい」
「ありがとうございます。では早速」
「いや咲夜あんたはレミィの許可を取りなさいって」
「そうですね。では出発は5分後ということで」
「5分以内に許可が下りること前提で話を決めていらっしゃる」

 もちろんきっちり5分後、2人は魔界に向けて出発したのだった。




 図書館の中に、突如門が現れた。
 禍々しい黒いオーラをまとった、いかにも悪魔でも現れそうな門だ。
 それを見て、ああもう1日経ったのか、とパチュリーは思った。好きなときに寝て好きなときに起きて本を読むだけの生活では、時間の感覚などほとんど残っているはずもなかった。
「よ、と。ただいまです、パチュリー様」
 小悪魔が扉を開いて現れた。
 可愛らしい笑顔と軽い声があまりにも門の外見とミスマッチである。
「ただいま戻りました」
 続いて無表情の咲夜が現れる。こちらのほうがよほど悪魔にふさわしいように見える。迫力はないが。
 二人ともなかなかの大荷物である。
「……お疲れ様」
 この光景に対してなにを言おうかかなり迷ったパチュリーとは、とりあえず、無難なことを言っておいた。

 とりあえず冷やしてきます、と咲夜はすぐに大荷物を抱えて去っていった。
 が、すぐに戻ってきた。小さな袋だけを持って。
 時間停止の能力を無駄に活用しまくることに定評のあるメイド長である。
「はい、パチュリー様。お土産です」
「あら。いらないって言ったのに」
 咲夜は持っていた袋をパチュリーに手渡す。
 いらないとは言っていたものの、いざ魔界のなにかとなると少しはわくわくするものだ。パチュリーはさっそく、袋から中身を取り出す。それなりに重量感のある、フィルム包装に包まれた、なにか。
「魔界名物、黒はんぺんでございます」
「魔界ってなんなの。なんなの魔界って」
「本当は最近話題の魔界焼きそばでも持って帰れたらよかったのですが。残念ながら私もお目にかかれませんでした」
「焼きそばで有名なのは東部のほうですからねー。私たち悪魔が住むのは西部ですし、西部以外にゲートを通すのは地方自治法第五条で固く禁じられていますから」
「中央のほうはもっと都会なんでしょ? 見てみたかったわ。まあ、悪魔たちが揃ってお茶畑で働いてるのを見るのも面白かったけど」
「不景気ですからねー。最近、特に上位の悪魔ほど召喚される機会がなくなってきたので、実は私みたいな下っ端のほうが仕事には恵まれてるほどなんですよ。ありがたいことですけど」
「ちょっと私の前でディープなローカル魔界トークやめてくれる? 色々と価値観が崩れていく音が聞こえてくるんだけど」
 耳を塞ぎたくなるような会話とはこのことだ。
 しかし咲夜は、いえ、やはり魔界は恐ろしいところですよ、と真顔で答えた。
「ええ。魔界は恐ろしいところでした。ここでは最大9割引まで勝ち取った私の値切りテクニックを駆使したにも関わらず、一銭たりとも引いていただけませんでした」
「うん。もう出てけ」



「フィッシュ・アンド・チップスでございます」
 蓋を開けてみると――これは、レミリアとパチュリーの前に出された皿に実際にかけられていた蓋を物理的に開けたという意味も含むダブルミーニングである――、咲夜の料理はこれであった。
「え?」
 パチュリーは反射的に声を漏らした。
「え?」
 二回。
「魔界にまで行って、買ってきた食材で、作ったものが、これ?」
「はい」
「いやもうちょっと……もうちょっと、ね? ほら、ね? ブイヤベースとか、色々あるじゃない?」
「すみません、私は地中海より北のことはよく存じなくて」
「あんたどこの人間だ。というか今目の前にあるコレは地中海よりはるか北の庶民料理のような気がするんだけど」
「過ぎたるは及ばざるが如し、という言葉がありまして」
「ちょっともうなにいってるかわからない」
 会話とはパチュリーのほうが先に諦めるものである。紅魔館ではそう定義されている。
 はあ、とため息をつく。
「まったく、わざわざ遠出までして買ってきて、まず作るのがこれだなんて、レミィもほら」
「懐かしいね――この味」
「呆れて……えっ」
「フィッシュ・アンド・チップスにはヴィネガー。わかってるじゃない、咲夜。揚げ色も上品になりすぎない程度に。よくできているわ」
「はい。私も懐かしく感じます」
「いやあんたほんとにお嬢様なの? ねえ?」
「――パチェ。そんなつまらないこだわりで、美味しいものを楽しめなくなるなんて、不幸じゃない? なんでも楽しんだほうが勝ちなのよ、人生」
「すごく正論だし。吸血鬼に人生を説かれるとは思わなかったわ……」
「あっ」
「あっ?」
「これは、お疲れのパチュリー様にもしっかり元気をつけていただこうという思いもあってのメニュー選びでございます」
「そんないかにも今思いつきました的なことを言われても」
「今思いつきました」
「改めて告白されても」
 もう一度ため息をついて、まあせっかくだし、とパチュリーも一口、口に含む。
「あふふっ」
 熱かった。
 ふー、と息を吹きかけて冷まして、もう一度。
 さくさくの衣の下から白身魚の柔らかい身が飛び出てきた。
「……おいしい」
「うむ、うむ」
 パチュリーが呟くと、レミリアも少し嬉しそうに同意した。
「このお茶も魔界のお茶だね。懐かしい味がするよ」
「……レミィってそもそも魔界の生まれだっけ?」
「違うよ。ま、でも、嗜みとしてね。一時期留学していたからね。いちいちルールが細かくて面倒なところだったけど、のんびりしてていいところだったよ」
「魔界という言葉からイメージできる単語が1つもでてこなかったんだけどどうすれば」
「なあ咲夜、今度いつかみんなで、パチェも連れて魔界に行ってみようかね。観光案内なら、パチェの部下ができるだろうし」
「いいですね。川下りとか、お茶摘みとか、そういうのも楽しそうです」
「懐かしいねえ」
「……魔界……魔界とはいったい……」
 いろいろな言葉を処理しきれず置いてけぼりになりつつ、じゃがいもの揚げ物にも手を出す。これもまた、おいしかった。
 楽しくて、おいしければ、なんでもいいのさ。
 そんなレミリアの言葉が、心地よく感じられた。くらいに、いろいろとなげやりになるパチュリー・ノーレッジ、魔女であった。
posted by 村人。 at 20:46| Comment(1) | TrackBack(0) | SS

2012年02月12日

はたてさんの新聞拡張記



 はたては、窓越しにそっと店内を覗き込む。
 二人組の客と、一人の客、合計三人の姿を確認する。よし、と心の中でガッツポーズ。一番気軽に入れるパターンだ。客は多すぎても、少なすぎてもいけない。多すぎると「待ってる人がいるから急がないと」と思ってゆっくりできなくなるし、少なすぎると店の人の注目を浴びてしまってなんとなく居心地がわるい。一人の客がいるというのもありがたかった。はたて自身、一人だからだ。いつものことだ。
 少し緊張しながら、引き戸を開けて、入る。店の奥のほうでなにやら話をしていた二人の女性が、はたてのほうを向いた。はたては、小さく頭を下げた。
 薄暗い店内を歩き、奥のほうの小さな席を確保する。席に腰をおろすと、はふ、と息を吐く。とりあえず座ってしまえば、緊張感からは一度解き放たれる。
「いらっしゃい。寒かったでしょう。いつものお茶で、いい?」
「あ、はい。……ありがとうございます」
 席に現れた店員が、優しく微笑みながら言った。はたては、話が早くて助かると思って、頷く。
 ほどなくして、湯のみに注がれたお茶がやってきた。湯気の白さが熱さを感じさせる。はたては、湯のみをそっと冷えた両手で抱え込んだ。気をつけながら、手を温める。
 いつものお茶、という言葉が出てきた通り、よく通っている店だった。さて今日はなににしようかと壁に貼られたメニューを眺めてみる。前回から特に新しいものは増えていないようだが――
「はい、これ。サービスよ」
「え?」
「店長から。今日は特別なお客様に、新メニューをサービスしてるの。気に入らなかったら残してくれてもいいから、どうぞ」
「え……あ、ありがとうございます」
 悩んでいる間に、店員がお菓子を一皿、運んできていた。
 今までにないことだったので、はたては戸惑う。が、断る理由などない。お茶もお菓子もサービスなど申し訳ない、という抵抗くらいだ。
 皿に乗っているのは、直方体の物体二つだった。
 見慣れた色は、全面にまぶされたココアパウダーのものだ。見るからに、チョコレート菓子である。
 というより、素直に考えれば、これは生チョコというものだ。
 お菓子の店なので、生チョコが出ることは不思議ではない。が、基本的にはここは和菓子の店である。以前から和洋折衷してはいるが、生チョコに和の要素はどこかあるだろうか。
 と、思いながら、添えられた楊枝で、菓子を刺す。柔らかい感触を貫く。
 持ち上げて口に運ぶ。このサイズであれば、一口だ。
 すぐに口に広がる濃厚なチョコの――
「……?」
 味以前にまず食感に覚える、違和感。柔らかすぎる。
 生チョコと言うより、これは。
 ちら、と店員のほうを覗ってみると、店員もはたてのほうを見ていた。にこ、と店員は微笑む。
「……お団子?」
 はたてが尋ねると、店員は嬉しそうに頷いた。
「びっくりした?」
「……びっくりしました。でも、ちゃんとチョコレートなんですね、中から柔らかいチョコレートが」
「そうそう。チョコレート団子なのよ」
「騙されました。四角く切ってあるから、てっきり生チョコかと」
「だーいせーいこーう」
 様子を覗ってみると、奥のほうでは店長も無表情でVサインを作っていた。はたては、表情と仕草のギャップがおかしくて、笑みをこぼす。
「ありがとうございます。美味しいです」
「うんうん。こっちこそ、いつもありがとうね。あなたはいつもじっくり味わって食べて、それで続けて来てくれてるから、店長も私も嬉しいのよ」
「あ……え、はい……」
 これまで、あまり店員や店長と話したことはなかった。そんなに見られているとは思っていなかったはたては、なんとなく恥ずかしくて、俯く。
 とはいえ、喜んでもらえているのだから、嬉しかった。
 この嬉しさを表現する言葉も、思い浮かばないのだが。
「あ……」
 この店のこと、個性的な和菓子のことは、記事でも何度か紹介していた。はたての新聞の中では数少ない、以前から自分の足と目と口で稼いだ取材内容が載るコーナーである、グルメレポートで。一番気楽に、趣味だけで書いているコーナーだったが、実際のところ、はたての新聞では一番評判がいい記事だった。
 実は私は新聞記者です。
 自分の新聞で、以前にもこの店のことは紹介しています。
 今日のことも是非紹介したいと思います。
 ――そう教えたら、もっと喜んでくれるだろうか。
 と思って、口を開いてみたものの、すぐに思いとどまって、口を閉じた。
 所詮は、読んでいる人などほとんどいないマイナーな新聞だ。まして、数少ない読者もほぼ身内の天狗ばかりである。こういった人里の店までやってくる天狗が、どれほどいるだろうか。宣伝効果など、ほとんどない。
 商売をやっている人間だと、記者が嫌いという人も多い。ほとんどプラスの効果なんて期待できないのに、不要に嫌われてしまうだけかもしれない。そうすると、この店にも入りづらくなってしまう。
 ――などと、瞬間的に考えて、最終的に、余計なことは言わないでおこう、と判断した。
 そんな葛藤に気づいたのかどうかはわからないが、店員は別の客に呼ばれて歩いていった。なんとなく安心して、はたては胸をなでおろす。
 もう一つのチョコレート団子を口に運ぶ。
 甘くて、柔らかくて、優しい味だった。

 おいしい新作を食べて、満足。と言いたいところだが、さすがにこれだけでは少し物足りない。というより、このままだと一銭も払わず帰ることになって、いくらなんでもそれは申し訳ない。
 ということで、一品なにか選ぼうとまた壁を見上げたところで、入り口の引き戸が開いた。
 自然、視線がそちらに向かう。
 入ってきた客を見た瞬間、うげ、と小さく漏らしてしまった。
 知った顔だった。と言っても親しいほどでもなく、話したことはあるが、友達とは言いづらい、微妙に扱いに困る距離感の相手だ。
 後に続いて二人が入ってきた。三人組。残りの二人も知っている。とはいえこちらは写真や文の新聞でよく見た顔というだけで、話したことはなかった。
 先頭の、いかにも魔法使いですと自己紹介しているような特徴的な帽子を被った小さい彼女が、きょろきょろと店内を見渡す。はたては、慌てて視線を下げて、まだ少し残っているお茶を見つめる。
「ん?」
 が、しかし。
「おお、そこにいるのはいつぞの記者じゃないか」
「……!」
 気づかれてしまった。
 はたては、恐る恐る視線を上げる。
「……どうも、こんにちは」
「よっ、今日も取材か?」
「あ、えっ……」
 魔法使い、魔理沙の声は遠慮がない。狭い店内に響き渡るには十分だ。
 記者とか取材とか、そんな言葉も、もちろん店にいる全員に聞こえたことだろう。
 焦ったはたては店長と、さっきの店員の様子をちらりと眺める。二人ともはたてのほうを見ていた。が、そこに特段するような表情は浮かんでいなかった。
 あんまり気にしてないのかな、と、解釈に困って悩んでいる間にも、魔理沙と、連れの二人は、もうはたての前まで歩いてきていた。
「この店は詳しいのか?」
「え? ……うーん、一応、よく通ってるけど」
「いいな。私たちはたまたま見つけて入ったんだ。おすすめとか紹介してくれよ。じゃ、そういうことで。ここに座ろうぜ」
 言葉の最後は、二人の連れに向かって。
 魔理沙の後ろでは、アリスがきょとんとした表情を浮かべていた。もう一人、パチュリーは、じゃ、お邪魔しますか、と落ち着いて言った。
 やがてアリスも、魔理沙とパチュリーが座ったのを確認して、流れに乗るように席についた。
 奥の席を取っていたということもあり、完全に三魔女に退路を塞がれた形になった。
「いやー、今日は寒いな、ほんと。とりあえずは――」
「皆さん、温かいお茶でいいかしら?」
「おっ」
 魔理沙が言いかけたところに、店員が現れた。
 店員は、三人を順番に眺めて、軽く首を傾げた。
「皆さんは、紅茶のほうがいいかしら?」
「ん? なんだ、和菓子屋なのに、紅茶もあるのか?」
「どうしても緑茶が苦手、という方もいらっしゃるので。あんまり種類はないんだけど」
「そか。いや、私は緑茶のほうが好きだ。そこの二人は……いや、こういう店だし、せっかくだから緑茶にしておこうぜ。飲めなくはないだろ?」
「私は紅茶で」
 魔理沙の振りを軽くスルーして、パチュリーは涼しげに答えた。
「えっ。えっと……紅茶で」
 少し申し訳なさそうな表情を見せてから、アリスも続いた。
 ああそうかい、と魔理沙は不満そうに言った。ま、いつかわかる日がくるさ、お前らにも。と、言い残しつつ。
「緑茶1、紅茶2だ」
「はーい。種類は――」
 細かい指定を終えると、店員は去っていった。

「こいつがいきなりやってきてさ、文に見せたのと同じ弾幕見せてくれってさ。同じじゃないとダメだって言うから、変なやつだなーって、覚えてた」
 全員でお茶を飲みながら、雑談タイム。
 まずはお菓子を頼む、というところだったが、店員が少し待ってて、と言って去ってしまったためだ。
「へえ、弾幕取材なんて、文以外にもする人いるんだ。流行ってるのかな?」
「い、いや、あのときはちょっと、たまたまというか、練習というか」
「そっか、でも、文の知り合いなんだ? よろしくね、はたてさん」
「あ……うん、どうも、アリスさん」
「おお、そうだ、あの時の新聞はあるのか? 結局どういう記事になったのか見てみたいんだが」
「あ、ごめんなさい……一応、書いてはみたんだけど、やっぱり練習だから、発行はしてないんだ」
「なーんだ。そっかー。普段はどんな新聞書いてるんだ?」
「え……えっと、最近は、とりあえず、見て回ったものを、そのまま」
「……いや、まあ、だいたいそうだろうけど」
 魔理沙が色々とつっこみ、アリスがところどころで流れに沿い、はたては落ち着かない様子でなんとか受け答えする、そんな流れで会話が進む。パチュリーは終始徹底無言で、お茶を飲んでいる。
「同じ烏天狗の記者なのに、文とは、なんか、ずいぶんと違う感じなのね」
「え?」
 アリスの呟きには、敏感に反応した。
 うーん、と少し考えてから、アリスは続ける。
「いや、ね、今まで文しか知らなかったから、記者ってああいうものかってイメージができちゃってるんだけど。もしかしたら文がすごく特殊なのかもしれない、って、今あなたを見てなんとなく思った」
「……具体的には、どう?」
「文って、誰と会ってもまず、できるだけ情報を引き出そうとするというか、質問してくるというか、ネタを求めてるのがわかるというか……とにかく強引にでも押してくるのよね」
「ああ、そうだな。丁寧な割に遠慮ないよな」
「あー……」
 はたては、薄く笑った。
「文は確かにやりすぎだねー、私も思うよ。でも、あれくらいしないと、自力でネタを掴むことなんてできないのかな、って思うときはある、かな。文は行き過ぎだけど、でも、記者やってる子はやっぱり、みんな積極的かな」
「あなたは、あんまりそんな感じじゃないわね。一言目に新聞どうぞ、じゃないし」
「……」
 なるほど、とはたては心の中で呟く。
 こうして言われてみると、わかっていたこととはいえ、やっぱり貪欲さに欠けているのだろうと、自覚させられるものだった。
「ま、文があれだけやりたい放題なのは、喧嘩が強いからってのもあるけどね。トラブルになったら逃げればいい、逃げられなくても抵抗できるし、くらいに開き直ってるし」
「迷惑極まりない考え方ね……」
「うん。でも、だから色んなネタ見つけたり、あんな写真とか撮れたりするんだろうなー。私には真似はできないけど、ちょっとは勉強してもいいのかな。記事は最低だけど」
「……なるほど、記者仲間の評価はそんな感じ、と」
「え……あ、えーと。私の意見が一般的かどうかはわからないよ」
「私はあいつの新聞、割と好きだぜ。暇つぶしにはちょうどいい」
「……うん。だいたいそんな評価は一般的」
 はたては、今度ははっきりと笑った。
 なんだかんだで、最近発行部数を伸ばしていて、こういう有力な人妖たちにも読まれているという話はよく聞いていた。目の前にはその生き証人がいるということだ。
 と、いうところで、店員がやってきた。
「はい、お待たせ。特別メニューよ」
「あ……」
 店員が持ってきた盆には、三枚の皿、その上には例のチョコレート団子。
「特別な客にだけのサービスなんだけどね。この子の友達なら、せっかくだし」
「おお」
「え? サービス?」
「そうそう。新メニューになる予定のものでね」
「わ、ありがとうございます」
 アリスが頭を下げると、ぱたぱたと店員は軽く手を振った。
「礼なら、そっちの彼女に言ってあげて。常連さんだけへのサービスなんだから、ほんとは」
「そうですか。……ありがとう、はたてさん」
「あ……う、うん、私はなにも、別に」
「役得だな」
 うんうんと、魔理沙が頷いた。
 パチュリーも、相変わらずなにも喋らないが、興味深げに出された皿を見つめていた。

「う?」
「うん?」
「……」
 食べた三人ともが、不思議そうな顔をした。
 少しだけ先にそれを経験しているはたては、なんとなく嬉しくて、自慢したい気持ちになった。どうだ、すごいでしょ。……しかし、別に自分が凄いわけではないことに気づいて、口に出すのは控えておくのだった。
「美味しい」
 最初に口を開いたのは、パチュリーだった。
「面白いし、美味しい。これ、いいわね」
 珍しく、一言さらに付け加えた。
「チョコレート味の餅……というか、団子、かな。騙されたわ」
 アリスは感服したように言った。
 ううむ、と隣で魔理沙も唸る。
「いいな、これ」
「でしょ、でしょ。私もさっき初めて食べたんだけど、見事にやられちゃったわ。柔らかさも甘さも絶妙だし、見た目は完全に生チョコだし、すごく素敵だと思うの」
 全員に好評なのを聞いて、はたては喜んで同意する。
「さすが記者だな。いい店知ってる」
「あ……うん、ありがとう! 別に、私がなにかしたわけじゃ、ない、けど……」
「あら、何回か紹介してくれてるじゃない。なにもしてないなんて、嘘だわ」
「!?」
 少し離れたところから、店員がはたてに向かって微笑みかけながら、言った。
 はたては驚いて目を丸くする。
 うふふ、と少し勝ち誇ったように、店員は笑った。
「黙っててごめんなさいね。実は知ってたのです。いやね、昔、あなたの新聞を読んできたって天狗さんがいたから、それで知ったの」
「……あ、え? え……」
「いつもありがとうね。すごく素敵な紹介文で、私も店長も大喜びよ」
「あ……あうう……いえ、あ、えっと、ありがとうございます……」
 どう反応して良いのやらわからず。
 はたては、だんだん小さくなりながら、顔を真っ赤にしていくのだった。
 隣で魔理沙が、いい話だなーと感慨深げに呟いた。
「あなたの新聞、こういうお店の紹介とか、あるんだ? 面白そうね」
「お菓子のお店の記事が多いの?」
 続いて、アリスとパチュリーも反応した。
 はたては、えっと、と少し慌てて、答える。
「お店紹介の新聞ってわけじゃ、ないんだけど……そういうのはメインじゃなくて、どっちかっていうとおまけ記事というか、趣味記事に近いところで」
「そうなんだ。一回読んでみたいな。今度、一部ちょうだい?」
「えっ……うん、あ、でも、最近練習中っていうか、ちょっと方向性変えたばかりで、その、あんまりまだ、うまくいってないっていうか、期待には沿えないかもしれなくて」
「……本当に、文の奴と同じ記者とは思えんな」
「そうね。でも、なんか、応援したくなるわね」
「せっかくだし、紅魔館でも一部取らせてみようかしら。本当に面白くなかったら、すぐやめるけど」
 パチュリーの厳しい言葉には冷や汗をかきつつ、はたては、ええと、と一呼吸置いた。
「ありがとうね。よかったら、読んでみて。今度――うん、また週末あたりに、この店で会いましょ。そのときに渡すから」
「よしきた。この店のことも覚えたぜ」

 あれよあれよという間に、三部も売れることになってしまった。
 天狗仲間でもない相手にいきなりこんなに売れるという経験は今までにないはたては、むしろ、緊張していた。絶対に気合を入れて、悔いの残らない出来のものを作って渡そう、と決意する。
 三人組を見送ったあと、はたては、もう一度、店に戻った。時間帯もあって、すでに客は誰もいない。
「あの、……えっと、ありがとうございました。すみません、記者だって黙ってて」
「ああ、いいの、いいの。好意的なこと書いてくれてるわけだし。それに、新聞とか関係なしに、気に入ってもらえてるのは、見ていればわかるし」
「……はい。好きです、大好きです」
「うんうん。いつもありがとうね、ほんとに」
「いえ、こちらこそ。……あの」
 はたては、少し迷ってから、聞いた。
「……その、来た天狗って、どんな人でした?」
「うーん?」
 店員は、首を捻る。
 しばらく、沈黙が続いた。
「よく覚えてないわ。来たのは一回だけだったし。一品食べて、あなたの新聞を置いて、帰って行って、それっきり。あんまり気に入らなかったのかも」
「そうですか……」
 残念ながら、特定できそうな情報は、入らなかった。
 もっとも、はたての新聞を読んでいる天狗など、そう多くはない。適当に当たっていれば、そのうちたどり着きそうではあった。
「ありがとうございました! また来ます!」
「また、週末にね? おめでとう、はたてさん」
「あ……はい、ありがとうございます!」



「ふふーん、ちょっと文、聞いてよ聞きなさい聞けばいいと思うわよー」
「うわ、うざい。なんなの脳内紫」
「ちょっとなによその脳内……紫……って……貶されてるのかどうかもわかりにくいからツッコみにくいじゃないの!」
「どうでもいいところにそんなにこだわらないの。なんなのよパープルはたて」
「ヴァイオレットにしてよ、どっちかっていうと」
「……用がないなら、私は忙しいから飛んでくけど」
「あ、待って、待ってよ。ちょっと聞いてよ」
「だから早く言いなさいよ」
「へへーん。なんと、山住みじゃない人間と妖怪に、合計3部も私の新聞が売れることになりましたー!」
「へー。それじゃ私は取材をする系の仕事があるからこれで」
「ちょっとちょっちょっとぉー!? ノーリアクションはあんまりじゃないー!?」
「おめでとー。ぱちぱち」
「えっへん」
「じゃ」
「待ってよー!」
「ああもう、めんどくさい。なんなのよ」
「いや、ほら、凄いと思わない? 凄いと思わない?」
「そうね。はたてにしては頑張ったわね。はたての新聞の部数にしては快挙かもしれないわね」
「絶対褒めてないでしょそれ!」
「事実を述べたまででございます」
「うぎぎ……」
「じゃ、行くわよ。もういいでしょ」
「うー……あ、ちょっと、待ってよ。文、あんたさ、私の新聞、読んでる?」
「は? あんたの妄想新聞なんて読むわけないでしょ」
「妄想じゃないってば。だいたい、最近はちゃんと自分で取材してるし」
「そうみたいだけどね。全然深い情報まで聞き取れてないみたいだし、あんなの取材なんて言わないわ」
「なんだ、読んでるんじゃん」
「……」
 ツッコミを入れると、文は少し不機嫌そうな表情を見せた。
「で? 言いたいことはそれだけ?」
「え? あ、うん、もしかして文さ、私の新聞持って――」
「私じゃない。以上。じゃあね」
「え、ちょっと……」
 文は、言い放つと、あっという間に飛び去ってしまった。
 あまりの急加速に、はたての目が追いつかなかった。
 呆然と空に向かって手を伸ばしつつ、はたては呟く。
「『私じゃない』って……なんのことかわかってるってことじゃない……」
 文のことだ。もしかすると、はたてがつい先日三人の魔法使いと会って話をしたことも、とっくに知っていたのかもしれない。だからこそ、驚きもせず、スルーした、とも考えられる。
 なるほど、情報収集能力でも敵わない。念写ではその手の情報を手に入れることはできない。少し、悔しい思いだった。
「……ふんだ。まあ、いいわ。文なわけがないし」
 空を睨みつけて、べーっと舌を出す。
 満足したところで、ぐっと拳を握り締める。
 よし、今までで一番の新聞作ってやるぞ、と気合いを入れた。
posted by 村人。 at 19:51| Comment(0) | TrackBack(0) | SS

2012年02月04日

そらまでとどけ

登場キャラ:空、お燐
ジャンル:まじめ
あらすじ:空が力を手に入れるまで、力を手に入れてから。
     地霊殿ストーリーの舞台裏で起きていた事態のお話。

http://murabito.sakura.ne.jp/scm/SS/soramade.html


今年最初のSSは2月になりましたました。
感想意見お待ちしておりまっす!
posted by 村人。 at 15:05| Comment(0) | TrackBack(0) | SS

2012年01月03日

アリスはじめ


「あけましておめでとうございます、アリスさん。今年もいいネタをよろしくお願いします!」
「おめでとうだけど意識的に提供してるつもりはないから」
「いやーちょっと中にお邪魔しますね失礼しまーす」
「……ちょっとは遠慮してほしいんだけど。まあ、いいけど」
 魔法の森のアリス宅に、今年も文がやってきた。もう日が沈みつつある時間である。
 文はアリスに続いてというよりアリスに並んで、家に上がりこむ。廊下を歩きながら、手提げのかばんから何かと取り出した。
「はい、これ、新年特別号と、洗剤と、山の映像技術展の招待券です。どうぞ」
「ありがとう。洗剤は役に立つわ」
「特別号も役に立ちますよ!」
「技術展っていうのは何?」
「写真と、カメラと、カメラの部品の展示会です。結構大規模で楽しいですよ。でも特別号も役に立ちますよ」
「ふーん、なかなか面白そうね、展示会」
 文を居間に通すと、アリスはお茶をいれるため台所に向かう。
「文はレモンよね」
「はい、さすがアリスさんです、覚えていてくれて嬉しいです!」

 お茶が入って落ち着いたところで、文はアリスに微笑みかける。
「いやはや、紅魔館での会合から帰った後すぐという忙しいところですみません」
「……なんで知ってるのよ」
「ふふん。記者は情報が命ですから。魔法使いの会合、私もいつか取材させていただきたいものですねえ」
「ダメだって。あれはほんとに魔法使い限定なんだから」
「でも、小悪魔さんやメイドさんの立ち入りは別に禁止していないんでしょう?」
「彼女たちは信用できるからいいのよ」
「やですねえアリスさん、その言い方だと私が信用できないみたいじゃないですか」
「……」
「……妖精メイドよりは信用できますよね?」
「……」
「……」
 しばし気まずい沈黙のあと、アリスは、少し遠慮がちに言った。
「私が許可した写真だけ撮って、私が許可した内容だけ記事にするのなら……」
「それは無理です」
「……」
 アリスは無言で紅茶を飲む。
 その無表情を確認して、慌てて文がフォローを入れる。
「あ、でも、そうですね、今年は少しでも、あまりアリスさんの意図に反したことはしないように心がけようと思います」
「……らしくないこと言うわね。驚いて紅茶吹くかと思ったわ」
「私も毎年の目標くらいは立てますからね」
「なるほど、いい心がけね」
「ところでアリスさん、今年の姫始めはお済ですか?」
「ぶふっ」
 紅茶吹いた。
「さっきの今で、あんた、は……!」
「いやー以前から興味はあったんですが、やはり魔法使いの会合というのはそういう――」
「ち、が、い、ま、す」
「違うということは、今年初めてのお相手は私ということになるわけですか」
「帰ってくれる?」
「待ってください。落ち着いて話を聞いてください。つまり、私が提供した道具がお相手ということになれば、それは私が相手と言っても過言ではないという――」
「帰れ」
「……使わないんですか?」
「しつこく突いてくるわね! 使わないの!」
「なるほど、アリスさんはやっぱり指派と」
「だからそういう話をしてるんじゃなくてね!?」
「ちなみに私も指派ですよ。仲間ですね!」
「いやほんともう帰ってくださいお願いします」


「あちょっと待って」
 帰ろうとした文に、アリスは後ろから声をかける。
「お相手ですか? どんなシチュエーションでもアリスさんなら大歓迎ですよ!」
「変なこと記事にしないでよ、さっきのとか」
「むむ……アリスさんらしからぬ華麗なスルー。さっきのと言いますと?」
「……いや、ほら。……さっきの話の」
「どの話でしょう?」
「わざとやってるんじゃないでしょうねっ! ……あの、ほら、指派がどうこうっていう……」
「ああ、そのことですか! 大丈夫ですよ、特にニュース性があるわけじゃないですし」
「……大丈夫なのはいいけど、理由がおかしいから」
「その件は、今じゃなくて、いずれまとめるアリニー特集に――」
 ぼふん。
 文の顔面、真正面に、いつの間にやら回りこんだ人形が正拳突きを綺麗に決めた。
posted by 村人。 at 16:33| Comment(0) | TrackBack(0) | SS

2011年09月04日

小ネタふたつ

ザ・インタビューの回答として書いた二つの小ネタを転載して更新替わりのお茶にごしにしてしまうのであります……!

なんかもう質問はネタでもマジでもどんどんやっちゃってください。
全力で遊ばせて頂きます!




1.パチュアリのパチュリーと、マリアリの魔理沙とどっちつかずのアリスを密室に閉じ込めるとどうなりますか


 視界を完全に埋め尽くす閃光が治まった後、そこに現れたのは――それまでと何一つ変わらぬ、傷ひとつない白い壁だった。
「くっ……これでもダメか」
「魔理沙の一番の技でもダメなら、このやり方は無理ね。考えましょ」
「……そうね」

 謎の閉じた世界に閉じ込められている。六面、白い壁しかない。
 三人ともここに至った経緯を思い出せない。ただ、気が付けば閉じ込められていた。
「いや」
 少しの間静かにしていた魔理沙が、ぽつり呟いた。
「まだ、ある。マスタースパークは、私の究極じゃない」
「え? でも魔理沙の技って――あ、ちょっと、まさか!」
 魔理沙の「究極技」に心当たりのあるアリスは、動揺して悲鳴のような声を上げる。
「……何? できるなら、やってみて」
 心当たりのないパチュリーは促すが、アリスは慌てて割って入る。
「ダメよ、あれは危険だわ」
「大丈夫さ。自分の身の守り方くらいは、知ってる」
「でも」
「なあ、アリス」
 ふわ、と。
 魔理沙は、やさしくアリスに微笑みかけた。
「無事に外に帰れたら、一緒に店、開こうな。ずっと考えていたんだ。私の新しい店」
「魔理沙、今はそんな話は――」
「そうよ。アリスは私のメイドになるって約束してるんだから」
「してませんけどー!? ってだからそんな話してる場合じゃなくて」
「諦めな、パチュリー。そろそろ気づいてもいい頃合いだろう? アリスが魔法の森から出ない理由をさ」
「家があるからなんだけど」
「あなたがアリスにとって大切な人であることは認めるわ」
「えっ」
「でも、私もそれは条件は同じなの。アリスに聞いてみればすぐわかることよ、ねえ?」
「いやちょっと、何の話を。ここから脱出」
「――アリスを困らせるなんて、お前らしくないな……ということもないな。お前らしいな。うん。いいさアリス、無理するな。店のこともゆっくり考えてくれればいい。でも今は」
 魔理沙は、アリスの手をそっと取る。
「私の力になってほしい。あと私のことだけ見てほしい」
「どさくさに紛れて何言ってるのこの白黒。私のために毎日クッキーを焼いてください」
「ちょ」
 パチュリーの手が、もう一つのアリスの手を握った。

 その瞬間。
 繋がりあった三人の心が、奇跡を起こす。
「あ」
「え?」
「お?」
 世界が、変わった。
 いつもの図書館。三人は手を繋いだまま、そこにいた。

「……えーと」
 呆然としている三人の中で、最初に立ち直った魔理沙が、言った。
「つまり、まあ、三人で仲良くやろうぜこれからも、ってことだ」
「えっ……うん」
「3Pね。嫌いじゃないわ」
「ちょっ」
「3Pってなんだ?」
「なんでもないなんでもないわほんと、ほら、三人で……パイでも食べましょ、っていう感じの」
「(モゴモゴ)」
「パイか。いいな。今から焼けるのか?」
「……材料さえあれば。でも時間かかるわよ?」
「そうか、それじゃ」
「三人で一緒に」
 魔理沙と、パチュリーが、示し合わせたように言った。
 二人で、顔を見合わせる。
 アリスは、吹き出した。
「作りましょ!」





2.文さんがアリスさんのところへアプローチに行っていることをはたてさんが知ってしまったようですが、そのことについて一言お願いします

 そんなことくらい、知ってるよ。
 隙を見て自画撮りしたのであろう、文と金髪の少女がキスをしている――というより、文が唇を奪っているその写真を見て、私は心の中で静かに呟いた。
 今更、文の悪趣味に呆れるつもりはない。文は少女という少女が好きなのだ。文の新聞はそのままあいつの趣味を形にしたものだ。――まだ、大人しい形で。
 金髪の少女が誰なのかも知っている。文の新聞を読んでいれば、何度でも出てくる。
 知ってるよ。知ってるんだよ。
 昔私に優しくしてくれたことだって、文の遊びに過ぎないんだって。
 この子も遊ばれているんだよ。可哀想にね。
 文なんて、そんな奴なんだよ。
「……ばっかみたい」

 ベッドに倒れこんだまま、写真をじっと眺める。
 馬鹿なのは誰? この子か、文か。私か。
 ――文は、酷い奴だ。いっつもあんな態度で、最初から全部遊びだとわかるように行動してるから、騙されたなんて文句も言えない。わかってるのに、うっかり私みたいに深みにハマってしまう子も出てくるわけだ。
 ずるいんだよ。あいつは。
『これ、あなたが書いたの?』
『え? うん……』
『素敵だわー……文章だけでこれだけケーキを美味しそうに表現できるのは才能よ、うん』
 やめてよ。褒めないで。
 これは本気、だなんて念を押さないで。
 あいつのせいで、向いてないなんてわかりきってる記者なんて目指しちゃった。
 嫌だ。後悔もしていない自分が嫌だ。文と同じ夢を追える、なんて思ってる自分が嫌だ。
 でも心地いい。
 文なんて嫌い。でも本当は嫌いじゃない。嫌いになれない。
 文の記事なんて嫌い。でも本当は好き。だけど気に入らない。
 わけがわからない。
 もやもやする。
 文はこの子にどんな言葉をかけたんだろう。どうやって誘惑したんだろう。知りたくもないのに気になる。
 矛盾だらけの私。それが今の私。
 文は文のしたいように好きにすればいい。止める権利は私にはない。
 でもどうか。どうか、私の手が届くぎりぎりの場所にいて。
 いつか捕まえて、ごめんなさいって言わせてあげるから。
 もう、写真の中の少女に、私を投影しなくてもいいように。いつか。いつか。
posted by 村人。 at 10:21| Comment(0) | TrackBack(0) | SS

2011年08月10日

パルノート(2)

 水橋パルスィ。一級の嫉妬技術者(シッティスト)である。
 二級以下の嫉妬技術者はシッターであり、最上級のシッティストを名乗れるのが極めて数少ない一級技術者だけであることは、改めて確認するまでもないだろう。
 今日も彼女は旧都の外れ、住所で言えば地底市旧都区地上穴口三丁目四百十番地あたりの橋で人妖の観察を続けるのである。業務として。
 嫌われ者が集まる地底の中でも特に忌み嫌われている彼女は、この暗さの中、目撃されたとしても話しかけられることは、まず、ない。
「パルちゃん、パルちゃん」
 たぶんない。
「ぱるぱるーぅ! 遊びに来たよー」
 ないんじゃないかな。
「え? あれ? おっかしいなー私いつの間にか意識しても人に姿見せられなくなっちゃったのかなー。試しにちょっとパルちゃんのお尻触ってみよっと」
 まちょっと覚悟はしておけ。
 ……
 いい加減断念したパルスィは、声の主に聞こえるようにため息を吐いてから、振り向いた。
「……聞こえてるから、やめて」
「あ、ちょっと動かないでよ! もうちょっとでお尻揉めるところだったのに」
「触る、からレベルアップしてるんだけど」
「触ったら次は揉むに決まってるじゃない!!」
「えっ……なんで怒られたの私……」
 むくれる少女こいしと、困惑する少女パルスィ。
 この物語は、これから二人が体験する、愛と勇気と感動と友情と熱血とロマンと八丁味噌と溶かしバターと砂糖と卵黄と薄力粉とバニラエッセンス少々よく混ぜて焼いてレモン果汁をかけて出来たものをパルスィが食べる羽目になるような、そんな話である。


「私ね、確信したよ。これからは地上がもっと身近になるって」
 こいしは、両手を広げて言う。
 晴れやかに、元気に。
 つまりいつもどおり。
 パルスィは、一度、空――というより、地底の天井、を見上げた。
「……痴情?」
「パルちゃんなにその、辞書のエロワードにマーカー入れまくる学生みたいな反応」
「……う。だって、地上が身近になる、なんて、ちょっと耳を疑うようなこと言うから。あと辞書にそんなことしないから」
「そうなんだ。私はしたけど。お姉ちゃんのに」
「楽しそうな姉妹で羨ましいこと」
 まあ、いたずらといえばいたずらだが、微笑ましい部類のものだろう。
 パルスィはしっかりと嫉妬することを忘れない。
「でね、お姉ちゃんがそれに引っかかったあとにね、夜に枕元で急にその単語を囁いてあげるのよ。あのときの反応をパルちゃんにも見せてあげたいなあ」
「……ああ、まあ、楽しそうで、羨ましいわ。あなたが」
「パルちゃんも一緒にお姉ちゃんで遊ばせてあげる! きっと毎日が楽しくなるよ」
「え、お姉ちゃんって、そんな扱いなんだ……」
「うん」
「なんと迷いのない肯定」
「あ、でも、パルちゃんは危ないかなあ。やったらすぐ逃げないと、パルちゃんは色々と業が深そうだから、心を壊されるくらい反撃されちゃうかも。ふふっ」
「え、今、笑うところだった? なんか凄いこと言わなかった?」
「その結果が今の私なのです」
「そうなの!?」
「うん、嘘」
「……殴っていいかしら」
「いいよー。できるものなら」
 睨み付けるパルスィに対して、ふらふらと挑発的に腕を振る。
 隙だらけにしか見えないところに、得体の知れない怖さがあった。
「一つだけ言っておくよ。パルちゃん」
 にや、と口の端を軽く吊り上げて、少し低い声でこいしは言った。
「あなたが私を一発殴る間に、私はパルちゃんのお尻を七回は揉めるわ」
「なにそのお尻への謎の執着」


「私ね、確信したよ。これからは地上がもっと身近になるって」
 十数分に及ぶ脱線の後、話題は戻った。
 そういえばそんな話をしようとしていた、と、パルスィは思い出す。現時点で既に色々とあって疲れきった状態で。
「全部言い直さなくても」
「もう、パルちゃん、そこは『痴情?』だったでしょー」
「ループさせてどうするの!?」
「人の歴史はいつだって同じことの繰り返し、ループしているのよ」
「そんな話で反論されても」
「いいえ! ループなんかじゃないわ。同じことを繰り返しながらもどこかに進んでいるの、いわば螺旋なのよ。わかって」
「数秒前の自分の発言くらい責任を持ってほしいわ」
「ところで立ち話もなんだし、どこかで落ち着かない?」
「えーそれを切り出すタイミングが想定外すぎる……」」
 概ねこんなペースでくるくろと話が変わるこいしに、パルスィはついていくので精一杯だった、というよりついていけていない。
 話すということは大変なことなのだ。話ができる人が妬ましい。と、本日二桁目を数えるネタマシレポートを仕上げて、うう、と唸った。
「確かに、疲れたけど。本当もういい加減。誰かさんのせいで」
「お姉ちゃんったら、もう。あとでオシオキしておくわ」
「あ、割と真面目にあなたのお姉ちゃんがちょっと可哀想に思えてきたわ……」
 姉妹がいるなんて妬ましい、と思っていたが、妹はいなくてよかったかもしれない。などと思うパルスィであった。
「悪いけど、私の居場所はここなの。ここなら他の誰も住み着いていない。他のどこに行っても疎まれるだけ、面倒だわ」
「美味しいもの食べられるところ行こうよ」
「人の話聞かないわね本当この子っ」
「ねね、地上行きましょ。地底よりも美味しいものいっぱいあるよー」
「……地上とか、ふざけないで。私が行くわけないでしょう」
 こいしの言葉に呆れて、半目で睨み付ける。
 地底ですら居場所のないパルスィが、地上に出られるわけもなかった。わかりきった話だ。
 しかし、こいしは、平然と笑顔を見せる。
「大丈夫だよ、私がいるから」
「それで何が大丈夫なのよ」
 パルスィのノートには、こいしの能力も記載されている。人に気づかれずに行動することができる、いわば隠密の能力だ。確かに、地底の妖怪が地上に潜入するにはこの上なく便利な能力だろう。
 だが、少なくともパルスィの知る限り、その能力を誰かに分け与える、たとえばパルスィも人から気づかれないようにするといったことはできないはずだった。
「そもそもパルちゃんのこと知ってる人も、ほとんどいないよ。遊びに行くくらいなら平気だって。もし気づいてパルちゃんを排除しようとした人がいたら、それはそれで」
 ぱっとこいしが目の前で掌を広げて、閉じる。
「ぐしゃっと」
「ぐしゃっと!? 何!?」
「大丈夫だよ、いくら調べても心臓発作としか出てこないから」
「だから何が!?」
「じゃ、パルちゃんの安心と信頼を得たところで、出発しようー」
「どっちも得てないから!」
 ぐいぐいと服を引っ張るこいしの手を振り払う。
 服もペースもこれ以上引っ張られてなるものか、と全力で。
 しかしこいしも諦めず、袖を掴みなおす。
「えー、そう言わないでさー。ここまで安心材料を見せたんだからー」
「今ので安心する人なんていないからっ」
「えーお姉ちゃんはさっきので『そう、それなら一人でも安心ね』って言ってくれたよー」
「姉妹揃ってもう手遅れ!?」
「まともな奴なんて地底にいないよっ」
「うっそれはそれで割と正論ってお尻触るなあああーーーーっ!!」



 結局、二人は地上に出たのか?
 それはここでは語るまい。歴史が真実を語っているのだから――
 ……
 まあ結局のところ地上に出ずこいしを追い返したパルスィは、今日もぐったりとしながらノートを更新するのだった。


・古明地こいし
 尻にこだわりすぎ。
 理解はできる。
posted by 村人。 at 19:30| Comment(0) | TrackBack(0) | SS

2011年08月07日

パルノート(1)



 街中でも薄暗い地底は、街外れともなるとなおのこと暗く、静寂に支配されている。パルスィは、そんな世界で日々を過ごす。決してこの暮らしを気に入っているだとか愛しているだとかそんなことはなかったが、街中に住むよりはずっと落ち着けた。
 暗くとも、特に困ることはない。地底の住人はもともと地上の住人よりもはるかに感度の高い目を持っているが、ずっと暗い場所で過ごし適応してきたパルスィにとっては、むしろ快適な状況だった。何より、誰かが通りかかったときに、自分からは見えるのに相手からは自分は見えていないという状況が好きだった。
 あの人は早歩きだ。足腰が強いのだろう。妬ましい。
 あの人は脚が綺麗だ。さぞかし自信もあることだろう。妬ましい。
 あの人が履いている靴下が可愛い。妬ましい。
 こんな具合で、他人観察をするのは割合と楽しかった。
 ……
 なお、決して脚しか見ていないわけではない。

 そもそもパルスィの存在に気づく者も少ないが、気づいたところで話しかける者もいなかった。知り合いでもなければ当然なのだろうが、加えて知り合いというのも極端に少ない。
 そんなわけで、パルスィは今日も気楽に、橋の斜めやや下方の河原から人妖観察に勤しむのだった。
 なお、このポジション取りは目立ちにくいからという理由であって、決して脚が見やすいからというわけではない。

「ねえねえ、毎日覗きばっかりしてて、楽しい?」
 声をかけられたこと自体があまりに久しぶりすぎて、パルスィはしばらくの間、それが自分に対する言葉だと気づかなかった。
 その声を聞いて、十秒ほどたってから、もしかして自分だろうかと思い立って、振り向く。真後ろに、小さな少女が立っていた。
 少女は、晴れやかな笑顔を浮かべている。
「……私?」
 一応、念のため、自分を指差して、少女に確認する。
 少女は、大きく首を縦に振った。
「あ、覗きだっていう自覚がないんだったら、ごめんね」
 余計な言葉を付け加えて。
「別に否定をするつもりはないけど。何か用なの、古明地こいし」
「私のことも知ってるんだ。偉いね」
「割と有名人だと思うけど」
 少女の姿をさっと眺めただけでも、まず絶対に目に付くのは、胸元にある「目」だった。はっきり言えば、この閉じた目、ここだけ見ればもう特定できる。
 もっとも、パルスィの知識からすれば、仮にその目を外していたとしても、少女の外見からこいしを特定するのは簡単なことだった。伊達に長年人妖観察を続けてきたわけではない。
「有名かなあ。お姉ちゃんならわかるんだけど。あんまり有名になっちゃっても困るんだけどなあ」
「用事は何」
「あー、でも、そうだよね、お姉ちゃんはこんなところ通ることないから。あなたにとってみれば、私のほうがまだよく見た顔かもね」
「用事は」
「もう、せっかちさんだなー。別に。あなたが寂しそうだから遊んであげようかなって思っただけ」
 少し頬を膨らませて、こいしは言う。
 パルスィは、軽くため息をついた。
「余計なお世話。帰って」
「やーだ、冷たい子だー」
「忠告でもあるのよ。ここは私の領域。あなたはすでに、足を踏み入れている。恐ろしい魔物に心を食い散らかされたくなかったら、早々に立ち去りなさい」
 緑色の目を光らせて、こいしを睨み付ける。
 パルスィの持つ力は、容易に人を狂わせる。その者の持つ力が強く、地位が高く、人望があるほどに、影響は破滅的に大きくなる。
 恐ろしさも実績もあるがゆえに、真っ先に地底に封じられた妖怪だった。封じられるまでもなく、パルスィ自身もそれを望んだ。制御できない自分の力に、自分自身でもうんざりしていたのだ。
 地底の住人であれば、パルスィの恐ろしさを知らないわけでもないはずだった。
「んー」
 こいしは、指を口元にあてて、軽く首を傾げた。
「まあ、お姉ちゃんだったら、危ないかもね」
「自分が例外だと思っているのなら、破滅するわ」
「嫌いじゃないよ、破滅。ねえそんなことよりさ、ノート見せて、ノート。私のこと、あとお姉ちゃんのことなんて書いてあるか気になるなー」
「……帰りなさい」
 パルスィの手の中には、確かに一冊の分厚いノートがある。これは人妖の観察記録である。何かに利用するつもりもなく、ただ、書きたいから書いたというだけのものだ。内容にさほどの価値はないだろう。
 しかし、まずそれ以前に、これが観察記録であることを知る者などいないはずだった。こいしの今の言葉で、パルスィの警戒心は数段高まる。
「私と話すということは、少しずつでも心の大切な場所を削られていくということ。早く去って」
「私は気にしないからさー。見せてよ、ねえ」
「あなたはまだ理解していないだけ。私の領域に踏み込むということは――」
「隙ありっ! ……おろ」
 話の途中に、こいしは飛び掛ってきた。ノート目掛けて手を伸ばして。
 それをさっと避ける。
「……」
 ノートを抱きかかえて、こいしと対面して睨み合って。
 そろそろ、パルスィの頭にも怒り筋が浮かび始めていた。
「あ、の、ね……」
「んん?」
 すう。
 パルスィは、一度、大きく息を吸った。
「いい加減にしてよっ! せっかくこっちが近寄りがたい雰囲気を演出してるんだから空気読んでもうちょっとそれなりの対応してよ! 一人芝居みたいになってて恥ずかしいじゃないの!」
「えーなんか理不尽な怒られ方だー……」
 声を荒げるパルスィに対して、さすがにこいしも少し引き気味に応対した。
「いいんじゃないの、そういう、作ってるキャラが乱されてだんだん素になってくるタイプとか割と人気要素になるよきっと」
「一応アレでも素なの! 素でいることがめんどくさくなったの! あなたのせいで!」
「私だって素なのに……」
 こいしは、むー、と口を尖らせる。
 ううう、と唸るのはパルスィ。
「で、用事は結局、ノートなの?」
「ううん別に。あなたが寂しそうだから遊んであげようかなって」
「繰り返されたくない言葉を繰り返さないでっ!」
「理不尽だなあ」
「うう。今のは私はあんまり悪くない……」
 いじけた顔で、パルスィは俯いて呟く。
「別に寂しくないし……遊んであげる、なんて言われて喜ぶほど飢えてないし……」
「みんなそう言うのよ」
「聞く耳持たないし……」
 がくり。
 肩を落とす。
 そのまましゃがみこんで塞ぎこんでしまいたい気分だったが、プライドもあるのでなんとか耐える。
「だいたい、あなただっていつ見ても一人でしょうに。人のこと言えないんじゃ?」
「いつも見てるんだ? やだ、恥ずかしいっ」
「そういうのはいらないから」
「んー、ま、いつも一人だよ。気軽だし。ま、だから似たもの同士、仲良くしようよ、うん」
「遊んであげる、とか言ってる時点で完全に上から目線なんだけど」
「遊んで差し上げるから」
「言葉尻だけ謙譲語にしてもね!?」
 このあたりで。
 ここまで一気に喋る機会のあまりないパルスィの息が、切れた。
 ……はあ、はあと息を吐いて呼吸を整える。
「もう疲れちゃった? じゃあ鍛えなきゃね。付き合ってあげるよー」
「……いや、もう、放っておいて、割と本気で。疲れたから」
「あらら。じゃあ今日はちゃんと休んで明日に備えてね。弱ってて姿勢が崩れてると骨折とか肉離れとか起こしやすくなるから」
「明日から何が始まるの!?」
「いいのいいの。今はそんなこと気にしないでぐっすり休んで。ちゃんと栄養あるもの食べて、体を冷やしすぎないように気をつけて寝てね」
「お母さんか!」
「じゃあねー、パルちゃん。また明日ー」
「パルちゃんってうおおおいもういなくなったしっ! なんなのっ!」
 唐突に姿を消したこいしの残像がまだ網膜に残った状態のまま、パルスィは叫んで。
 ――ふらり、と眩暈を感じて、しゃがみこんだ。
「あ……しゃべりすぎた……」
 襲い来る頭痛に頭を抱えながら、そういえばと現状に気づく。ずいぶん賑やかに色々と喋ってしまった。誰か通りかかったりしなかっただろうか。ミステリアスな雰囲気が割と台無しになっていないだろうか。
 などと心配しながら、ふう、と深く息を吐いて、なんとか眩暈をやり過ごした。
 橋のほうをちらっと眺める。人の姿はないようだ。ずっとなかったかどうかはもう不明だが。
 過ぎたことを気にしても仕方がない。あっさりとそう割り切って、パルスィはノートを開く。過去を振り返るのは嫉妬するときだけでいい。今はそんな気分にもなれなかった。疲れていた。
 ペンをとって、古明地こいしの項目に一文を付け加える。



「以前より少し脚が太くなっていたように見える。やはり地上の食べ物は美味しいのだろうか。妬ましい」
posted by 村人。 at 21:46| Comment(0) | TrackBack(0) | SS

2011年07月03日

いつだってクールなのが、パチュリー・ノーレッジである。

 ぼんやりと、天井を見上げる。
 苦しい発作は、幸いにも今回は早期に治まった。丸2日ほど続くことがあることを思えば、僅か数時間程度で済んだのはありがたいことだ。咳き込むのが止まらない間は本当に、何も考えられないものだ。
 落ち着いた今となっては、残るのは体のだるさ。薬の作用によるものだろう。
 計算の途中だった。少しでも早く戻らないと、どんどん忘れてしまいそうだ、と思う。が、同時に、既にその意味では手遅れだとも思う。ならば、もうしばらくはゆっくりしていてもいいのではないか。
 事件は、そんな、本来であればまどろみの五分間となるべき時間に、起きた。


 こん、こん。
 ドアが静かに叩かれた。顔を横に向ける。
「――パチュリー様、起きておられますか。アリスさんがお見舞いに」
 小さく、しかし聞き取りやすい声が、ドアの向こうから聞こえた。
 聞こえてきたキーワードに、思わず勢い良く体を起こしかけて、途中で力尽きてまたベッドの中に崩れ落ちる。頭から何かが降りてくるような感覚とともに、目眩。思った以上に、弱っている。
 それでもせめて、と、頭を少し上げて、ぐちゃぐちゃになっている髪を簡単にまとめる。前髪も、鏡で見ることは出来ないが、勘で揃える。
 顔も酷いことになっているだろうが、これはどうしようもない。せめて、アリスがいつも褒めてくれる髪だけでも整えておきたい。汗で濡れているのであまり綺麗にはできないのだが、それでも多少なりとも抵抗はしたかった。
 ……戦いを終えて、ふう、と軽く息を吐く。
 それなりの時間が経ったのだが、その間に小悪魔の確認の声が届くことはなかった。ただ、寝ていると判断されて帰ったわけではないという確信があった。彼女は、これくらいの時間は待ってくれる。
「……どうぞ。入って」
 ドアに向かって言う。
「はい。失礼します」
 予想したとおり、彼女の返事が淀みなく返ってきた。がちゃりと大きな音を立てて、ドアが開く。

 ベッドの中から覗き込む、普段の八分の五ほどしかない視界で、小悪魔と、後に続くアリスの姿を確認する。心配そうなアリスの顔を見て、少し嬉しくなる。ついでに、アリスのことだから何か美味しいものでも持ってきてくれたのではないかと期待して、視線を少し下げる。布団に隠れて見づらいが、何やらカゴを持っているように見える。
 期待感を抑えきれず、うっかり笑みが溢れそうになる。堪える必要は特にないのだが、しかし、なんとなく悔しくて、無表情を作る。
 カゴには気づかなかったふりをしつつ、視線を今度は、なんとなくベッドサイドのテーブルの方に移す。特に意味はない。ただ、アリスの顔をじっと見るのもなんとなく違和感というか居心地の悪さがあったのだ。

 ――そして。
 私は、テーブルの上にある本を見つけて。
 その本が何であるかを思い出して。
 固まった。


 まずい。
 どう考えてもまずい。テーブルの場所的に、通り過ぎられて視界から消える場所ではない。ベッドの隣に立っていれば、いずれはそこに目がいく。
 実にまずい。
 歩かなくてもすぐに手が届くところに置いておこうと思ったのが間違いだった。あれでは、丸見えだ。今後はいつ倒れてもいいように、片付ける癖をつけておかないといけない――なんて、反省しても、手遅れだ。
 こうなると、発作が早く治まったことも裏目に出ていると思わざるを得ない。まだ酷く咳き込んでいる間だったら、小悪魔は自身以外に誰も人を入れない。そうこうしている間に、本に気づいた小悪魔が片付けてくれていたことだろう。

 ――なんて考えている間にも、もう、二人はすぐそこまで来ている。
 まずい。
 いくらなんでも、魔法少女の露出性癖モノはまずい。また主人公が、普段は物静かで大人しい内向的な少女だというのがまずい。どう考えても、連想されてしまう。いや。違うの。これはそういうアレじゃなくて。
 いや確かに自分に近い少女が、服の下に恥ずかしい格好を隠して衆人環境に身を晒してドキドキして興奮しているという、その状況に感情移入して興奮していたのは事実なのだが。事実なのだが。
 違うんです。妄想イコール願望ではないんです。わかって。
 と、どこかにいるであろう運命の女神っぽい人に愚痴っていても仕方がない。死が目前に迫っているときに、ただ座して運命を待つことが許されるのは人生を走り終えた者だけだ。
 ……そうだ、希望は、ある。

(小悪魔)
 視線を彼女に向ける。
 しっかりと目が合う。当然だ。彼女は私からの視線を絶対に逃したりしない。
 視線をテーブルの上に小さく動かす。ちら、と。小悪魔は、涼しい笑顔のまま、特に反応は見せない。
 もう二人は、あと一歩でベッドの前にたどり着く。小悪魔は、アリスのためにベッドの前の場所を空ける――そのとき、非常にさりげない動作で、彼女は、テーブルの上にある本を左手で回収した。私ですらその動きに一瞬気づかなかったほど、自然な体の流れのまま。
 ……
 ほう、と息を吐く。
 見事だ。普段はどこか頼りない彼女だが、私の求めるものを与えてくれるという一点においては、ほとんど完璧といっていい仕事をしてくれる。

「よかった。そんなに悪くはなさそうね」
 案の定、アリスは全くその動きに気づいた様子もなく、ほっとした顔で言った。ほっとしているのはこちらのほうだ。
 もちろん私はここまでの動揺など表に出すことはなく、クールに決めるのだ。
 ……小悪魔への礼は、後で言おう。
「アリスが来てくれたおかげで、よくなったわ」
「もう、またそんな適当な事言ってー。……無理、しないでね」
「うん」
 私たちの会話の間に、小悪魔はすっと後ろに下がって、アリスのための空間を確保する。……例の本は、後ろ手に持っているのだろう。
「ちょっと、ごめんね」
 アリスの手が近づく。
 少し緊張して、構える。
 ぴた、と、額に冷たい手の感触を感じる。冷たくて、気持ちいい。
「うん、熱は問題ないみたい」
 手が離れる。
 ……ちょっと、惜しい。
「大変ね、いつも。完全に治すことは、できないのかしら。本当に」
「研究は、してるんだけどね」
「病気は難しいからねー……」
 アリスの悩む表情にも、癒される思いだ。病気の辛さは以前と変わっていないが、こうして心配してくれる人がいるというだけでも、気分はずっと楽になる。
「ま、もうちょっと寝てたほうがよさそうね。りんご、持ってきたんだけど、後でね」
「えー」
「まだ体を起こすのも大変でしょ。無理したら、また悪化しちゃう」
「アリスが口移しで食べさせてくれれば問題ないわ」
「それ危険だからね、普通に」
 ……冷静にツッコまれた。
 少し、寂しい。
 いやしかし、アリスの反応の悪さは、それだけ心配してくれているということだ。悪くはない。うん。
 アリスがテーブルの上にカゴを下ろす。どうやら中身はりんごだったらしい。

 そして、アリスの視線の動きが、テーブルの上で、止まった。
 ……
 微妙な、間。
 釣られて私も、視線をテーブルに向ける。アリスの視線を追う。
 …………
 ……


(もう一冊あったァーーーーーーーーッ!?)
 ガビーン。

 あれは。あれはなんだったか。ここからでは表紙は見えない。
 ええと。ええと?
 いや、いや、思い出してもどうしようもないのだが。
 とか考えていると思い出してしまった。そうだ。アレはかなりのレアモノ。
 苦労して探し出して、最近ようやく手に入れた本。
 人形遣いの少女が、魂を人形に移し替えられて、今まで自分がしていたように好きなように弄ばれてしまうという――
 という――
 ……

(明らかにさっきよりなお悪いー!!)
 どう見てもアリスを連想させるものです。
 本当にありがとうございました。

 しかも入手したアレはカバー付き限定版。
 糸に絡められた少女のアレな姿がばっちり描かれているのである。
 ……
 なんてこと。
 テーブルの方を向くことなく自然に本の回収をやってのけた小悪魔の、その技術が裏目に出るとは。少しでも目をやっていたのなら、下に積んである本がここまでアレだったらすぐに気づいて続けて回収してくれたはずだった。
 これはいったいどういうことなのだ。
 雨が弱くなるのを待ってから出発しようとぎりぎりまで粘った結果、一番雨が強い時間にちょうど移動するハメになってしまったような気分だ。

 さて。
 いくら悶えていても、アリスの視線がそちらに向かっているという事実をもはや覆すことはできない。
 ……
 いや、魔法とか薬とかでなんとかできないでもないかもしれないが。
 ……
 いや……しかし……それは……
 そう。悩んでいる間に、事は、次のステージに、移った。
 小悪魔が、ごく自然な動作で手を伸ばして、その本を手に取った。
「失礼しますね」
「え、あ……うん」
 戸惑うアリスに向かって、小悪魔はにこ、と微笑む。
 そして、私に向かって、深く頭を下げた。
「申し訳ございません、パチュリー様。私の私物を部屋に忘れたままでした。責任持って回収しておきます」
 そんなことを、言った。
「――!」
 さすがに。
 とっさにはクールな言葉が出なかった。
「あ、ああ……そうね……」
 何がそうね、なのかわからない。
 ほら。私はアドリブに弱いのだ。
「アリスさんも、ごめんなさい。少し気を悪くされたかもしれません。うっかり夢中になって、パチュリー様の看病の間も手放せず、こんなところまで持ち込んでしまいました。私、その、こういう本が大好きで」
「え、う、ううん、別に、私は何も。何も問題ないんじゃないかしら」
「ありがとうございます、アリスさん」
 小悪魔はアリスに対しても頭を下げた。
「……」
 小悪魔。
 これほどの。
 ――これほどのモノとは!
 頭を下げたいのは、私のほうだった。
 ごめんなさい。なんか本当。ごめんなさい。
 ……給料と休暇を、いっぱい上げてやろう。うん。

 落ち着いた佇まいで、小悪魔はもう一度一礼して、それでは失礼します、と言って、ドアの向こうに消えた。
 アリスと二人で、彼女を見送る。微妙な、不思議な空気。
 ドアが閉まったところで、アリスはこちらを振り向いた。
 あはは、と乾いた苦笑いを浮かべて。
「いやー……びっくりしちゃったわ。図書館の本なのかしら」
「う……うん……まあ、ね」
 しどろもどろ。
 落ち着け自分。こんなに慌てててどうする。私はいつだってクールで、慌てるのはいつだってアリスの役割のはずなのに。
「それにしても、あれだけ堂々と宣言されると、逆に清々しいわね。ある意味、カッコいいかも……」
「……!」
 何気ない言葉なのだろう。
 しかし、聞き逃せない。
 かっこいい、とは。
 そうだ。こんなにオタオタしている私より、小悪魔のほうがよほど格好いいではないか。アリスの視点は、正しい。目が覚める思いだ。
 軽いパニック状態になっていた私は、その言葉で落ち着きを取り戻した。
 いつだってクールなのが、パチュリー・ノーレッジである。
「アリス」
「ん?」

 もう迷わない。
 もう何も怖くない。

「私も、あの本、好きなの。三日前にも世話になったところよ」
 堂々と。
 清々しく。
 かっこよく!

「あ、あ、そ、そうなの……」
 アリスは、とても困ったような顔で、微笑んだ。
 そして部屋を包む、沈黙。
 ……


(やっちゃったコレーーーーーーーーーーーーー!!)
 はい小悪魔の身を削った献身も無駄にしましたー!
posted by 村人。 at 13:07| Comment(0) | TrackBack(0) | SS

2011年06月26日

新着コメントが一件あります!

http://murabito.sakura.ne.jp/scm/SS/hatacome.html

キャラ:はたて、文


微妙に長くなったので独立ファイルで。
はたてさんかわいい
posted by 村人。 at 18:44| Comment(0) | TrackBack(0) | SS

2011年06月12日

[R-18]春色騒動四季折々 3と4【完結】

というわけでお待たせしました!
合計255KBのドタコメ、冬と春です。これで完結です。
よろしくですよー!


3.冬は雪、私の花が咲きました
http://murabito.sakura.ne.jp/scm/x/SS/FourSeason_03Winter.html

4.春は愛、また会いに行きます
http://murabito.sakura.ne.jp/scm/x/SS/FourSeason_04Spring.html
posted by 村人。 at 13:06| Comment(0) | TrackBack(0) | SS

2011年06月06日

[R-18]春色騒動四季折々 2.秋は花、私の庭と貴女の庭です

第2部です。
次はえっちシーン一つ完全に新規挿入しようと思っているのでこんなに早くはないと思います。
よろしくおねがいいたします!

http://murabito.sakura.ne.jp/scm/x/SS/FourSeason_02Autumn.html

posted by 村人。 at 06:21| Comment(0) | TrackBack(0) | SS

2011年06月05日

[R-18]春色騒動四季折々 1.夏は夜、だいだいそんな出会いでした

はーい!
以前に、とある企画で書いたと言っていたお話です。
ゲームになる予定だったのですが、残念ながらなくなっちゃいました。ので、小説風に若干の加筆修正を行いまして、公開することにしました。
合計200KB超え(250いくかも?)という僕の過去最長SSを2倍以上凌駕するボリュームですので、ご注意くださいというかゆっくり楽しんでいってね!
まずは第一部です。少しずつこの先の分も作業を進めていきます。
最近は週刊更新のペースでやってますが、これはもうちょっと早めにいけるかもです。

あ、18禁ですごめんなさい。

http://murabito.sakura.ne.jp/scm/x/SS/FourSeason_01Summer.html

主要登場キャラ:妖夢、幽々子、幽香、紫(2部以降)
全編通してコメディです。
日常シーンは純粋に好き放題書かせていただきつつ、Hシーンはある程度要望を受けながら書ける範囲で色々と頑張ってます。キャラもシチュエーションも僕としては相当に珍しいものに仕上がっております。ノリとかストーリーの流れはいたって自分だと思いますが。

長いのでまったりとよろしくお願い致します。
posted by 村人。 at 14:32| Comment(0) | TrackBack(0) | SS